小説 川崎サイト

 

十二月三十二日


 十二月三十一日、大晦日。除夜の鐘が鳴り、翌日となるが、それが十二月三十二日。そんな日はない。
 もし三十二日があり、元旦一月一日はその翌日だったとすればの話だが、そんなことはないのだが、あることもある。
 その魔の日は一日分はないものの、除夜の鐘が鳴る頃から朝方にかけてがそれに相当する。
 年が明けた瞬間とは十二月三十一日の十二時から一月一日にかけての瞬間。そこで明けましておめでとうございますとなるるが、戻ってから寝て、朝目が覚めたときは元旦の朝。このときも、また明けまして……となる。
 つまりカウントダウンのときは三十一日大晦日の終わりの終わり。しかし、零時を回ってもまだ夜。これは誰の夜か。新年の夜ではない。日が昇っていない。それにこれを正月の夜だとすれば、元旦の夜はどうなる。夜は一回でいい。だから初日の出までは大晦日の領域。三十一日の夜の領域だが、それが三十二日なのだ。六時間ほどしかないが。
「妙なところをこじ開けましたねえ、合田君」
「はい、徹夜したときの経験です」
「そうだね。一年に一度だけ真夜中でも電車が走っているものねえ」
「そうです。三十一日だけの深夜ダイヤです。私鉄もJRも走っています。これに乗ると、三十二日を体験できるのです」
「まあ、何でもいいがね。そういうこと、何か役に立つのですか」
「立ちません」
「そうでしょ。ただのウダ話」
「はい、しかし、そういう日があるような気がしまして」
「まあ、何事も、そういった感覚から始まりますからね。だから大いにそういう話をしなさい」
「はい」
「これはですねえ。寝るのはやはり日が変わるまでがいいということです。十二時までに寝るのがいいと思います。寝ている時間に起きているわけですから、日が変わっていてもまだ続いているわけです。その日の夜が」
「はいはい、分かりました」
「ところで、今日は何日でした。年は明けたと思いますが」
「さあ」
「頼りないこと、言わないで下さい。新年になっているはずだが」
「そうでしたか」
「まだ、明けておらんのでなあ。暗いから」
「しかし、まだ手伝わないといけませんか」
「すまないねえ。遅れていてね。年を越してしまいそうだ。いやもう越したかもしれない」
「いいですよ。できるまで手伝いますから」
「そうしてくれますか、有り難い有り難い」
「やはり、まだ明けていないように考えます」
「そうしてくれ、年内にできるはずだったのでね」
「はい」
「じゃ、続きお願いしますよ」
「分かりました」
 
   了

  


2020年1月1日

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