小説 川崎サイト

 

初夢


「初夢は如何でした」
「見たように思いますが、忘れました。確か普段よく見るような夢かと」
「忘れましたか」
「はい、それが初夢だとは気付かなかったので」
「元旦の夜ですよ」
「じゃ、明けて二日の朝に、思い出す夢ですね」
「そうです。それに失敗したなら」
「失敗」
「いや、気に入らないとか、見なかった場合は二日目の夢でもいいのです。これも初夢です」
「すると、三日の朝に分かる夢ですね」
「そうです。これは予備として使えます。どうでした。二日の夜に見た夢は」
「見ましたが、元旦の夜の夢と同じで、よく見そうな夢で、しかも忘れてしまいました」
「あまり印象に残らない夢だったのでしょうねえ」
「いや、起きたときは覚えていましたよ。しかし、忘れました」
「夢を忘れる」
「はい、よくあることでしょ」
「それがあなたの初夢です」
「え」
「夢を忘れる、というのが初夢だったのです」
「将来の夢とか、そっちの方ですか」
「そうです。若い頃から見ていた夢などを忘れてしまったというような感じでしょうかねえ」
「じゃ、思い出します」
「何とかなりますか」
「人が出てきました。昔の人です。そこまでは何となく覚えているのですが、もう数日前の夢ですからねえ、覚えている方がおかしいほどですよ」
「それも含めて、夢を忘れたとなるのです」
「それが初夢のお告げですか」
「いや、そんな具体的なものではありません。縁起のいいものを見れば、今年は良い年だ、程度です」
「たとえば」
「富士山とか」
「見ませんねえ。富士山の夢なんて」
「何でもいいのです。あなたにとって縁起のいいものが夢の中で出てくれば」
「それで、こいつあ春から縁起がいいやと叫ぶわけですか」
「まあ、その程度のものです」
「でも夢など見ない方が、健康状態がいいんじゃなりですか」
「さあ、それはよく分かりませんが、覚えていないだけで、見ていたかもしれませんよ」
「見た夢を忘れたのが、今年の初夢でしたが、あまり普段と変わり映えのしない夢だったと思われます」
「じゃ、縁起の良し悪しよりも、平年通りの一年になるので、それはそれでいいんじゃありませんか」
「夢を忘れ続けるわけですね」
「リアルの夢も、そんな感じで落ち着いたのではありませんか」
「まあ、どうとでも解釈できますから」
「そうですね。夢の解釈は本人次第」
「そうそう」
「それで、あなたの夢は何ですか」
「私の夢ですか」
「そうです」
「忘れました」
「そのまんまですねえ」
「あ、はい」
 
   了

 


2020年1月6日

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