小説 川崎サイト

 

正月抜け


 正月明けからしっかりやればいいと思い、三が日はのんびりしていた。そして明けて四日。何故か体調が悪い。身体がしっかりしない。食べては寝て、食べては寝てでゴロゴロしていたためだろうか。休み疲れがあるのなら、そのあとまた休まないといけない。そうすると休み疲れがさらに溜まり、もっと休まないといけない。そんなバカなことはないが、動き出せば戻るのだろう。
 吉田は例年この正月明けからの立ち上がりに苦労している。下手をすると一年かかったりする。大晦日にやっと正月明けから抜け出したとしても翌日は正月。またそこで休むので、しっかりしているのは大晦日の日だけとなる。そんなバカな話はないが、一年を大晦日だけでやってしまうと言うのも悪くはない。
 今年も御馳走を食べ過ぎた。初詣には行っていない。外に出れば身体を動かすので、多少は運動になるが、正月は何もしたくないので、必要最小限だけの外出ですませた。
 いずれにしても正月明け、仕事始めの頃になると世間も正月から抜け出すので、その波に乗れば自ずと正月気分から抜け出せ、それなりに活動的になるので、特に正月抜けの方法は必要ではない。
 正月抜けができない人々が溜まり、必死で抜け出そうと藻掻いている絵を思い浮かべたが、具体的には出てこない。
 吉田はこういうとき、友人を訪ねる。一年中寝正月をやっているような人間で、よくそれで生きてられるなと感心するが、この友人の部屋に行ったときはいつも寝ているためだろう。それ以外の日や時間帯は外で仕事をしているのかもしれない。
「今年も正月抜けで来たのかい。ここに来ると、余計に抜けられないよ」
「本当は抜けたんだがね。仮病だ」
「そうか。ずっと正月のままの方がいいからね」
「しかし、何もしていない方が疲れる」
「そうか、じゃ、疲れる仕事へ行けば、楽になるかね」
「ならない。本当に疲れる」
「つまり、頭が疲れているんだ。身体ではなく」
「うん、そうなんだ」
「まあ、やる気の問題だな」
「去年やり残したことがあって、来年、つまり今年だが、正月からやろうとしたんだが、やはりできなかった。そして正月が明けてからやろうとしたんだけど、やはり重い」
「やりたくないんだ」
「まあね」
「まあ、ギリギリになればやるよ。やらないともの凄いことになればね」
「そうだね。別にやらなくてもいいようなことだったし」
「そうだろ。だから、やらなくてもいいんだ」
「それを聞いてほっとした」
「正月から元気を失っただろ」
「え」
「だから、元気になろうと思って、来たんだろ」
「そう元気をもらいに」
「しかし、元気なときはいいが、元気がないときの過ごし方の方が大事なんだ。下手に元気などもらうと迷惑なはず」
「そんなものかな」
「僕は元気のないときの方が元気だ」
「変わってるね」
「そういうのを聞きに来たんだろ」
「そうだけど」
「まあ、世の中も生き方も解釈次第」
「そうだね」
「それと、元気なんて状態を言っているのであってね。元気なんて勝手に湧いてくるさ。そういうネタに当たればね」
「うん」
「だから、元気がないときが勝負なんだ」
「じゃ、僕は勝負しているんだ」
「そうだよ。それが元気な証拠」
「何か、欺されたような」
「さあ、僕はこれからまた寝るから」
「悪かったねえ。じゃ、退散するよ」
「そうしてくれ」
 吉田は友人のアパートを出て、少し先の電柱の陰から様子を見ていた。
 すると友人が、さっと出てきた。
 仕事に行くのだろう。
 流石にそこまで追跡しなかったが。
 
   了


2020年1月7日

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