小説 川崎サイト

 

エゴウ衆


「あの人はエゴウ衆なので、あまり逆らわん方がええ」
「でも、無理難題を」
「ほどほどに聞いておけばいい。誰もエゴウ衆には逆らえん」
「エゴウ衆って、何ですか」
「大江山の江と里の郷と書く」
「じゃ、江郷衆」
「この一帯のヌシじゃ」
「地方の実力者ですか」
「そんな力はない」
「じゃ、そんなに恐れることは」
「それが決まりでな」
「昔は凄かったのですね」
「そうじゃな。その名残り」
「エゴウ衆の代表は誰ですか」
「そんなもの、もうおらんだろ。バラバラになったのでな」
「一般の人とエゴウ衆とはどう違うのですか」
「いやいや、ここには一般の人などおらんよ」
「え、そうなんですか」
「エゴウ衆はなあ、昔このあたりを治めていた一族なんじゃ。それだけのこと」
「今はそうじゃないのでしょ」
「領主様は次々に代わりよる。いずれも外から来た人ばかり。しかし、最初に治めていたエゴウ衆の連中は地元の人でな。今も残っておる」
「はあ」
「まあ、エゴウ衆が治めていた頃を懐かしんでおるんじゃろ。だからエゴウ衆は特別扱い」
「それで横暴なのですね」
「もう力はないのにな。しかし、ここの歴代のどの領主様も出来が悪い。余所者じゃからな。それに比べればエゴウ衆のほうがまし。地元の連中なのでな」
「はい、分かりました」
「しかし、エゴウ衆がここを治める前は都の人の領地だったんだ。エゴウ衆がそれを奪った。エゴウ衆様々じゃな。それがエゴウ衆の全盛期。いい時代じゃった。だから、エゴウ衆には恩がある」
「しかし、すぐにその地位を奪われたのでしょ」
「お隣の豪族に取られてしもうたが、その豪族もまた、大きな豪族に取られ、それもまた大きな勢力に取られた。お前さんたちの殿様じゃ」
「それは聞きました」
「その家臣が交代で、ここを治めておる。あまりよくない。エゴウ衆の時代に比べてな」
「じゃ、ここの人達はエゴウ衆に期待しているのですか」
「それは無理じゃが、領主と渡り合えるのはエゴウ衆以外いない」
「はあ」
「領主もエゴウ衆を警戒しておる。何せ、元領主で、地元との繋がりも深いのでな」
「でも、ここの領民の代表じゃないのでしょ。エゴウ衆は」
「どの村の庄屋もエゴウ衆と繋がりがある」
「でもエゴウ衆の代表はいないのでしょ」
「エゴウ衆の本家は滅ぼされた。遠縁が生き残っておるだけ。遠い親戚じゃ」
「あなたもその縁者ですか」
「わしは違うが、孫娘がエゴウ衆に嫁いでおる」
「しかし、エゴウ衆は態度が悪いです。横暴です」
「あんた、城から来たんだったか」
「はい、新任の郡奉行です」
「じゃ、苦労するぞ。エゴウ衆には」
「それで逆らわない方がいいということですね」
「そうじゃ」
「それと領主様も大目に見ておるのは、戦のおり、エゴウ衆は強いからなあ。いい戦力になる」
「はい、そのつもりで臨みます」
「まあ、色々と事情があるんじゃ」
「はい、承知しました」
 
   了


2020年1月10日

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