小説 川崎サイト

 

動かない人


「動きますか」
「いや、ここはじっとしている方がいい」
「またですか」
「今回は見送ろう。まだそのときではない」
「しかし、前回、それで見送って、後れを取っています。もう動いてもいいでしょ」
「前回はいいチャンスだったが、今回は少し事情が変わった。動いてもいいのだが、今一つだ」
「形勢が少し変わりました。ここは立場をはっきりさせておいた方がいいのでは」
「木下さんはどうだ」
「相変わらずです、動いていません。あの人はそんな人です」
「私もそんな人かもしれん」
「ここは立場をはっきり示しておいた方がよろしいかと。後々不利になります」
「そのあとがどうなるか、分からん。だから迂闊に動けん」
「どっちつかずでは、何ともなりませんよ」
「何とかなる。大勢が決まるまで待とう」
「それじゃ、また末席ですよ」
「もう慣れた」
「前回動いておれば、よかったのに」
「そうだな。あとの祭りだ。しかし、そのときは態度を示すのはいいが、変えられん。もし旗色が悪くなった場合、何ともならん。三島さんがそうだ。早まったんだ」
「分かりました」
「私はこんなことにはに合っていない。どっちでもいいんだ」
「しかし、その先が大きく変わります」
「博打だ。私には合わない」
「誘いがきています」
「またか」
「断りますか」
「会わないでおこう。断るまでもない。下手に断ると、あとが面倒だ。どっちつかずのまま、曖昧にしておこう」
「まあ、貧乏くじを引くより、いいかもしれませんねえ」
「そうだろ」
「しかし、前回よりいい条件で、誘ってきてますが」
「もう片方からは来んか」
「はい、お誘いはありません」
「誘ってきた方が不利なんじゃろ」
「そうなんですか」
「しかしそうやって木下さんのところにも行っているだろう。木下さんが転べば変化する。バランスが崩れる」
「でも木下さんは動かないタイプでしょ」
「そうだな。私は動くタイプなので、誘いに来ているんだろう」
「じゃ、今回も動かないことに」
「うむ」
 
   了



2020年2月4日

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