小説 川崎サイト

 

ある一日


 朝、目が覚めると、今日は別に何もないので、急いで起きることはないと三島は思い、布団の中でグズグズしていた。そのうち、そのまま寝入ってしまったようだ。前日早起きしたので、寝不足気味だった。昨日は面倒な用事を片付けたので、気持ちも軽い。緊張しなくてもいいし、時間を気にする必要もない。
 三島はそういう日を何度も経験しているが、普通の経験でよくある経験。しかし、最近は用事が減ったので、スケジュール表も白い。
 そのため、昨日の忙しさは久しぶりだった。それを果たしたのだから、今日は大いばりでのんびりと過ごせばいい。といってもいつものペースでいい。好きなときに起きて、好きなときに寝る。その間は自由時間。
 次に目が覚めたときは、かなり遅くなったが、十分眠れたのか、もう満足。それ以上寝る方が苦痛に思えたので、さっと起きた。
 室内がかなり明るくなっている。昼間の明るい部屋になっている。
 布団から出て、いつものソファーへ行こうとしたとき、少しだけ妙な気持ちになった。ふらついたからではない。身体は大丈夫だ。しかし、何か違う。
 寝違いがあるように、起き違いがあるのだろうか。寝違いは、妙な角度で寝たので、首が痛いとかだが、起き違いは気持ちの問題かもしれない。何か妙な時間に起きてきたような。
 別の世界で起きてしまうと、完全な起き違いだが。そんなことはあるわけがない。どんな世界で目が覚めるというのだ。それに部屋の中はいつもの三島の部屋。別の世界ではない。
 目覚めはよかったので、寝起きが悪いわけではない。
 では、この妙な気持ちは何だろう。
 三島はソファーを離れ、パソコンのあるテーブルへ移動した。そして、電源を入れた。
 スケジュール表を見るためだ。
 三島はエクセルを起動した瞬間、思い出した。
 妙な気持ちとはこのことだったのかと。用事が今日もあることだ。終わっていなかったのだ。これは別件で、昨日済ませた用事とは違う。大した用事ではないが、二日続いていたのだ。
 それは簡単な用事だし夕方前に出掛ければ済む。それに用意も準備もいらない。人に会うだけ。
 妙な気持ちが起こらなければ、気が付かなかった。これを何処かで警告してくれたのだろう。
 誰が。
 まあ、忘れていたわけではないので、頭の片隅にあったようだ。
 しかし、今日はのんびりと過ごしたい。昨日の疲れがまだ残っている。
 用事というのは、頼まれ事で。相手が何か言ってくるだけ。セールスかもしれない。しかし、会う約束をしたのだから、守るべきだろう。話だけは聞くと返事している。いずれもメールで。
 そして夕方近くなったので、三島は出掛けることにした。今日は会えない事情ができたので、と、ドタキャンのようなことをすると、後味が悪い。
 昨日出掛けたばかりなのに、今日も出掛ける。最近では滅多にない連チャン。昔なら毎日のように出ていたのだから、別に苦痛ではなかった。
 そしてターミナル付近の分かりやすい待ち合わせ場所まで来た。
 同じように待ち合わせの人が二人いる程度で、ここは待ち合わせの穴場なのだ。遠方から来た人でもすぐに分かる目印がある。有名な待ち合わせ場所は人が多いので、探すのが大変。
 しかし、待っても、それらしい人が姿を現さない。初対面なので、どんな人物か、見るのを楽しみにしていたので、この人ではないか、あの人ではないかと、行きすぎる人を一人一人チェックしていた。まあ、待ち合わせなので、やることがないので、通行人を見ているしかない。
 十五分ほど経過しただろうか。頼み事がある側が遅刻なのだ。
 電話をしても、いい時間なので、ケータイを取り出そうとしたとき、鳴り出した。
 風邪で熱があるので、出てこられないと。
 風邪でも腹痛でも何でもいい。事情ができたのだろう。
 三島はケータイを仕舞いながら、逆にほっとした。昨日の用事がきつかったので、その褒美で、何か良いものでもこれから食べにいける。ついでに、なかなか買えなかった電化製品もあり、それを買ってもいい。もう頭は切り替わっていた。
 その後、その人物からの連絡はない。果たして、どんな事情で、尻切れ蜻蛉になったのかは調べようがないし、また興味もない。
 三島も、そんなことを何度かしたことがあるので、そこは理解が早い。
 さて、何を食べるかで悩んだ末、結局は回転寿司を食べた。あまり豪華ではなかったが、満腹になるまで皿を積み重ねた。
 それで、妙な一日になったのだが、すぐに、そんなことなど忘れてしまうだろう。
 
   了
 


2020年2月12日

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