小説 川崎サイト

 

継続の力


 何事においても頭打ちになることがある。特に懸命にやっていたことは、期待も大きいだけに、がっかりだろう。それでやる気が失せることもある。継続は力だが、続けるだけの意味がなければ、それも難しい。面白くないためだ。
 頭打ちとなったことをまだやり続けるのは、果たして愚か、または賢いのか、それは分からない。
 柴田はそれで考え込んでいたのだが、上司はそれを見て、何か言いたそうにしている。
 上司ならどっちを選ぶのか、柴田はそれが気になった。この部門は任されている。なにをどうしてもいい。続けるのもやめるのも柴田次第。
 そして、それを見かねたのか、上司が様子を尋ねた。
「さあ」
 柴田は曖昧に答えた。上司の意見を聞きたかったのだ。
「継続は力なりという。続いているだけで力になる」
「そうなんですがね」
「違うか」
「どんな力なのでしょうか。力が無いので、頭打ちになっているのです。これを続ける意味がなくなってきました」
「だろうね」
「あとは偶然を頼るしかありませんが、それはおそらくないでしょう。ずっとこのままです」
「じゃ、やめるか」
「決めかねています」
「あ、そう」
「どうすればいいのでしょう」
「そうだね」
「何かいい知恵でもあれば」
「知恵ねえ。あればとっくに教えているよ」
「最初の頃はよかったのですがね。今は止まりました」
「減りだしたか」
「もう激変はしませんが、じわじわと減っていることは確かです。現状維持も難しいほど」
「衰退の一途を辿るというやつだね」
「そんな呑気な」
「まあ、何処かで底を打つだろう。そこは安定している。もう目だって落ちないはず」
「はい」
「これを維持できておれば成功だ」
「落ちているのですよ。それに伸びない」
「しかし、底値で動きが止まったことが大事なんだ。さらに減り続けるわけじゃないだろ」
「はい、上下は多少ありますが、それ以下に落ち続けるような傾向はありません」
「君が得たのはそれだ。それが君の力」
「そうなんですか」
「底のその力は安定した力」
「それと継続は力なりの力とは違うでしょ。続けていたからこそ最後は勝てるのでしょ。それがパワーになって、簡単に勝ててしまえる」
「いや、そうじゃない。継続するには力がいるということだよ」
「我慢ですね」
「そうだね。続けていても良い事など起こらないかもしれない」
「しかし、頭打ちで、伸び代がないのですから、力も入りませんよ。やる気が失せる一方で」
「だから、続けるには力がいるといっている」
「我慢ですね」
「そうとも限らん。続けられさえすれば、何でもいい。力んでも力まなくても同じ結果なのだから、そこは適当でいい」
「なかなかその気にはなれませんよ。それこそ、力が必要です」
「継続できる力だね」
「そうです」
「それは勝手に作りなさい。我慢とか辛抱以外の何かを見付けて」
「思い当たりません」
「それが継続の力だよ。簡単に見つかるものじゃない。貴重な力なんだ」
「難しい力なんですね」
「希有な力だ」
「それは何だと思います」
「私にも分からないが」
「惰性ですか」
「それに近いね」
「じゃ、やる気のない状態で、だらだらやることにします」
「そうか、続けることに決めたか」
「その心境に、少し入ってみます」
「そうしたまえ。私も今、その心境に入っている。こちらも頭打ちでねえ。何ともならんよ」
「大丈夫ですか」
「ああ、最低限は維持しているから、まだ撤退しない」
「お互い、頑張りましょう」
「いや、頑張らない方が、上手く行く」
「そうでしたね」
「力を抜くこと。これが力だ」
「欺されたと思ってやってみます」
「欺しているんだがね」
「あ、そうでしたか」
「うむ」
 
   了



2020年2月17日

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