小説 川崎サイト

 

雨男


 雨の日は出掛けにくく、また雨なら中止することも多いだろう。水を差すということだが、田植え前などは差してもらった方がいい。
 雨の日にしか出掛けない人がいる。雨男だ。これは雨蛙に近い。雨男、雨女は、一緒に出掛けるとき、その人が加わっていると、雨になる。本来晴れた方がいい場合に水を差す。その雨男、雨女とは別に、一寸違うタイプの雨男がいる。清水という男で、名前からして水が付いている。ただ「きよみず」と読めばまた違ってくる。清水の舞台から飛び降りるなどの、あの清水だ。水が湧く場所。
 さて、雨男清水は雨が降らないと出掛けない。これは行楽に出るときで、雨がないと外に出られないというわけではない。仕事や買い物などでは普通に出ている。
 もし雨男は雨の日にしか外に出られないのなら、夜にしか外に出られないような生き物に近くなる。しかし、雨は始終降っているわけではないので、外に出る機会がもの凄く減るだろう。
 ただ、清水は行楽に限ってのことで、遊びに行くときに限られる。だから、天気が悪くても平気。逆に晴れていると出ない。曇りでも出ない。その意味では不自由。出るチャンスが逆に少ない。
 こんな日に限って雨、というその雨の日にしか出られないとなると、そんな日に限って晴れ、となる。
 清水は魚でもないし、両生類でもない。一応肺で呼吸している。それに雨程度では、エラ呼吸もできないだろう。
 そうではなく、雨の日にしか出掛けないのは、人が少ないため。出ている人がガタンと減る。行楽地、観光地でもそうだ。つまり、すいている。
 ただ、雨で中止となる野外イベントなどもあるが、主に景色を見に行く程度。風景や建物とか。
 だから雨が降っていても門は開いている。雨なので休む寺社などないだろう。
 この清水は当然雨の日の花見などは得意中の得意で、雨が降れば大喜びだ。
 ただ、人出が少ないことだけで喜んでいるわけではなく、雨そのものが好き。
 この雨をいい景色の中で見たい。ただ、雨はあくまでも脇役で、演出。水を得ることで映える。青空の映え方とはまた違う光沢がある。
 樹木の色目まで変わる。そして苔。これが浮かび上がって見える。そして水滴。野菜に水をかけると青々とするようなもの。
 景色も濡れれば気持ちも濡れる。湿気た空気を肺の奥まで吸い込むと、気持ちがいい。
 傘を差していても衣服は濡れるが、傘を持って出るだけ。合羽などは着ない。
 世の中には変わった趣味の人がいる。ただ、あまり人には言わないので、そんな人の噂など、ほとんど聞かない。
 
   了



2020年2月24日

小説 川崎サイト