小説 川崎サイト

 

楽天地


 人は生きている間には進化しないが進歩はする。それは前進か後退かは分からないが、おそらく前進だろう。前進だと進歩となるが、ほとんどの場合変化だろう。
 変化というのは変わること。これは良い意味も悪い意味もなく、変わるだけ。そして意味そのものも変わるので、なんともいえない。ただ何らかの変化がある。これはかなり具体的だ。
 変化にもいろいろあり、タイプがある。自分で決めて自主的に変化する場合もあれば周囲との関係で変わらざるを得ないこともある。おそらく後者の方が多いだろう。世の変化に合わせるように。
 世のはやりなどがそうだろう。流行。
 また環境の変化で、いろいろと変えなければいけないことも多い。そうでないと不都合なことになる。
 最終的には本人が決めることだが、妥当なことならそのまま受け入れるだろう。決心というほどではなく、それが御時世だと思い。
 大石は先にやってしまうようで、変化を強いられる前に。
 だから言われてやるのではなく、自分の意志でやる。実際には強いられていることには変わりはないのだが、それでは仕方なしにやるような感じなので面白くない。
 結局は周囲に合わせるわけだが、その合わせ方に多少の違いがある。そこにやっと大石らしさが出るのだが、そんな個性など出しても仕方がない。ただ個体により順応の仕方が違う程度。
 世の流れに逆らった生き方もあるが、これも程度の問題だ。未だにちょんまげをしているような人は相撲取り程度。
 やはり周囲との関係で違和感が出てきたので合わすことになる。人の自由意志など僅かなもの。
 ただ世間から見て、どうでもいいようなことなら、自分の意志を通し続けることはできるだろう。誰からも文句が出ないほどの些細ごとなら。ここはおそらくその人の世界で、楽天地かもしれない。趣味の世界にそれが多い。
 ただ、世の中に影響を与えたりすることもないので、無視されているようなもの。大事なことではないためだ。
 大石は進んで世の中に合わせ、人にも合わせているのだが、それができるのは楽天地を持っているためだ。ここだけは自分の意志が通るので、当然通し続ける。
 世の中よりもその楽天地の方がメインなのかもしれない。
 
   了



2020年3月11日

小説 川崎サイト