小説 川崎サイト



ある目覚め

川崎ゆきお



 とんでもない時間に目が覚めることがある。
 淀川はトイレで起きたのではない。睡眠が中断されたのではなく、もう起きてもよい時間のように感じた。
 この感じはいつもの自然な目覚めと同じだった。
 カーテンを開けるが、まだ暗い。曇っている暗さではなく、夜の暗さだ。
 電気をつけると時計の針が見えた。二時を回ったところだ。
 淀川は思案した。
「起きていいものだろうか?」
 いつもは七時前に起きる。今起きてしまうと睡眠不足で働かないといけない。
「何かの間違いだ」
 体が間違ってしまったのだろうか。
 淀川はカーテンを閉め、電気を消し、布団に入った。
「妥当な判断だろう」
 だが、妥当ではなかった。
 寝付けないのだ。
 もう十分眠ったと体も頭も思い込んでいるようだ。
 しかし、淀川はそう受け取らない。朝まで眠っていないことを知っているからだ。
 三十分後、眠るのを諦めた。
 淀川は起きるとすぐに喫茶店へ行く。それがいつものコースだ。儀式のようなものだ。
 七時開店の喫茶店でモーニングを食べてから一日が始まる。
 深夜では無理だ。
 しかし、いつもの喫茶店が定休日の場合は、自転車で駅前のファストフード店へ行く。だが、今の場合、それも無理だ。
 二十四時間営業のファミレスぐらいしか開いていないだろう。
 それは自転車で行けない距離ではないが、かなり遠い。寝起きから運動はしたくない。
 このまま七時まで待てない。
 一体どうしてこんな時間に起きてしまったのだろう。目覚めないといけない何かがあるような気がした。
 たとえば大地震が起こるとかだ。木造の古い家なので、ぺしゃんこになる可能性がある。
 起きていれば、とっさに身をかわせるかもしれない。
 しかし、淀川にはウナギのような予知能力などないことを自身知っている。
 淀川は出掛ける用意をし、外に出た。地震を恐れてのことではない。
 いつものように喫茶店へ向かったのだ。
 こういう時、見てはいけないものを見るかもしれない。
 たとえが閉まっているはずの喫茶店が明々と開いていたりとかだ。
 喫茶店が近付いた。駐車場の向こうに不気味な闇を含んだガラス窓が見えた。
 淀川は窓に近付き、覗いてみた。
 テーブルでコーヒーを飲んでいる淀川の姿があれば、怖いだろう。
 
   了
 
 
 



          2007年8月6日
 

 

 

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