小説 川崎サイト

 

青野へ


「昨日はどちらへ」
「はい、出かけていました」
「晴れていましたが風が強かったでしょ」
「そうですね。冷たい風でした」
「どちらまで」
「いえ、その辺をうろうろと」
「どこへ行かれたのですか」
「少し遠いですが青野辺りでした」
「近場ですが、自転車じゃちょいと遠いですねえ。歩いてじゃ無理だ」
「はい」
「青野のどこへ」
「その辺りです。その周辺をうろうろして戻ってきました」
「何かありましたか。青野に」
「別に何もありません」
「青野といえば焼き物が名物です」
「居酒屋ですか」
「いえ、陶芸です」
「そうなんですか」
「食器じゃなく、置物ですがね。見学、されました?」
「それは知りませんでした」
「あ、そう。目立たないからかなあ」
「青野も広いですから」
「そうだね」
「じゃ、青野へは何をしに」
「別に」
「青野といえば陶芸でしょ」
「知りませんでした」
「まあ、中に入って見学などできませんがね」
「置物なのですか。信楽焼のような」
「そうそう」
「青野物と呼んでます」
「全く知りませんでした。何度か行ったことがあるのですが」
「瀬戸物は瀬戸で作った焼き物。青野で作れば青野物になります」
「陶器と磁器の区別もできてませんので、よく分かりません」
「あ、そう。でも青野焼きはレベルが低い。まあ、土産物でしょ。小さいし。小物ばかり。菓子で言えば駄菓子。青野物の土鈴は有名らしいですがね」
「良い土が出るのでしょうねえ」
「出ません。他から運んできます」
「詳しいですねえ」
「青野に友人がいましてねえ。それを聞いただけです」
「実際に青野へ行った僕よりも、詳しいです」
「そんなものですよ」
「はい」
「しかし、わざわざ青野まで何をしに行かれたのですか」
「いえ、別に」
「目的もなしに」
「あ、はい」
「それで、何を見られました。良いことありましたか」
「別に」
「あ、そう」
「晴れていたので、久しぶりに自転車で走ってみたかっただけです」
「ああ、自転車が好き。サイクリングとか、ポタリングとか」
「いえ、普通のママチャリです。ぶらぶらするのが好きでして」
「あ、そう」
「あ、はい」
 
   了


2020年4月8日

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