小説 川崎サイト

 

花水木


「花水木」
「はあ」
「ハナミズキ」
「はい」
「花の名は種々あるが、これはいい名前だなあ。淡い」
「桜の次は花水木ですか」
「そうだね。桜が散れば花水木の季節。これは地味で大人しい花を付ける。そして淡い。この淡さは何とも言えん。特に逆光で見たときね。桜のように固まって咲いていない。いい間隔で咲いている。これもいい」
「花水木のファンですか」
「いや、たまに見かける程度。花水木通りがあってねえ。街路樹が花水木。わざわざこれを植えたのは、外観だろうねえ。その歩道は実はマンションの土地なんだ。高層マンションでね。地元の反対があったが、結局建った。また敷地内に大きな公園を作った。マンション専用じゃないよ。誰でも出入りできる。地元に対するそれなりのサービスだね。殺風景で狭い道だったが、そこに広い歩道を作り、花水木を植えたのもサービスかもしれんねえ。今じゃ地元の人よりマンション住人の方が多いだろうねえ」
「外観とは」
「ああ、その花水木越しにマンションの写真。当然上から見たイラストにもその歩道と花水木が効いておる。北アメリカ産で、アメリカヤマボウシ」
「詳しいですねえ」
「さっきスマホで調べた」
「はあ」
「北アメリカ産らしいので、これはカナダも含まれる」
「はい」
「その花水木の下を毎日通っていてねえ。気にはしていたのだが、何の木なのかは知らなかった。それで、調べてみるとね。花水木。これは有名じゃないか。何処かで聞いたことがあるはず。喫茶店の名前だったか、スナックの名前かは忘れたがね」
「しかし、そういうものに目が行くようになったのですね」
「花水木は知っていたが、どんな花なのかは知らなかったが、木の花程度は読めば分かる。こいつがそれだったのかと知ったとき、言いたくなってね。それで君に言っただけさ」
「あのう、本日呼び出されたのは、その話をするためじゃないでしょうね」
「ああ」
「では、用件をお聞きします」
「まあ、そう急ぎなさんな。君と会うのも久しぶりだから、たまには食事をしたいと思ってね」
「光栄です。しかし、怖いです」
「用件がかい」
「そうです。わざわざ指名されたので」
「たまには君も使いたい」
「光栄です。で……」
「うむ」
「誰をやるのですか」
「言わずとも分かっておるだろ」
「はい」
「結果を楽しみにしている。頑張ってくれ」
「了解しました」
 
   了



2020年4月17日

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