小説 川崎サイト

 

ハードとソフト


「ハードではなくソフトです」
「物理的なものよりも、プログラムのような、アプリの方ですね」
「いや、きついか弱いかだ。ソフトはそのままの意味で優しくふんわりとしている。ソフトタッチとハードタッチの違いで、機能は同じ」
「ハードウェアとソフトウェアの違いじゃないわけですね」
「きついものよりも大人しいもの。その程度だよ。あまり激しくないもの」
「それが何か」
「ソフトなものが最近の好みでね」
「豆腐のような」
「そうだな」
「それがどうかしましたか」
「ハードなものは行くところまで行く。ソフトなものは、そこまで行かない。これだな」
「専門性を極めないという意味ですか」
「専門家の話じゃない。好み、趣味の問題だ」
「趣向のような」
「そうだな」
「それがどうかしたのですか」
「どうもしないが、最近、そちらの方に興味がいく」
「なんでしょう」
「別に頭まで豆腐のようにソフトになったわけじゃないが、きついのは、えらい。疲れる」
「ハードですからね。当然疲れるでしょう。でも本格的ですよ」
「いや、その本格的というのが、最近面倒になってねえ」
「何かありましたか」
「好みが変わっただけだよ」
「よく分かりませんが」
「まあ、他人の気分など、誰にも分からんものさ」
「それで、どうされるのですか」
「だから撤退する」
「それが言いたいのですね。遠回しな」
「ソフトに伝えたかった」
「じゃ、本格参入はしないと」
「疲れるからな。それに、それだけの体力はうちにはない」
「つまり、それが戦略なのですね」
「いや、そんなものじゃなく、好みが変わったんだ。さっき言った通り。疲れることはもうしたくない。それとね」
「まだ、何か理由がありますか」
「意外とどぎついものより、弱めのやつの方が需要があったりする。本格的なものより、簡単なものとか」
「はあ」
「これは私のカンだ。第六感じゃない。そういう感じを私が好むようになった。だから戦略じゃない」
「よく分かりませんが、もう本気でやらないということですね」
「その本気が曲者でね。軽くやったときの方がよかったりする。そして誰もが本気を望んでいるわけじゃないはず。ここだよ。ここに最近気付いたんだ」
「よく分かりませんが、撤退はいいことだと思います。無理しているので、我々も実は歓迎です」
「おお、賛成してくれるか」
「本気でやり合っていても果てしがないので」
「逃げるんじゃないよ」
「はい」
「ソフトな路線に向かうだけ」
「楽になりますから、歓迎です」
「実はこちらの方が難しく、ハードかもしれないがね」
「はい、了解しました」
 
   了


2020年4月23日

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