小説 川崎サイト



土手の柳は風まかせ

川崎ゆきお



「厳しい状態になっているようだが大丈夫か」
「見た目ほどには厳しくありません」
「本人はそう感じているようだが、そうじゃない。非常に厳しい状態になっておる」
「特に変化は……」
「ないと思うから、恐ろしいんだ。君が思っている以上に深刻な状態になっておる」
「そうなんですか」
「怖いものでな、まだいけると思いたいだけか、または、まだましな箇所しか見ておらんのだよ」
「別に苦しくはありませんが……」
「苦痛は感じぬものかもしれん。だから危ないんだ」
「どうすればいいんでしょう」
「自覚を持つことだ。思っている以上に悪い状態だと」
「最近、楽になったような気がするんですが」
「それは、慣れだ。それで増々離れていってしまう。二度と戻れんようにな」
「確かに身なりは多少変わりました」
「多少じゃない。かなりだ。ここに来た時とはもう別人だぞ」
「そんなに変化しましたか?」
「気付かんから恐ろしい」
「頷ける面もあります」
「そうだろ」
「はい」
「人は環境だ」
「はい」
「理解して、頷いておるのか?」
「はい」
「環境とは自然環境ではないぞ。地球環境でもない。社会環境だ」
「社会ですか」
「そうだ。社会環境、すなわち社会生活だ」
「その社会がどうかするんですか?」
「社会によって人は変わる」
「それは理解できます」
「君がいる社会は、世間一般の社会とは異なる」
「ここは社会ではないのですか?」
「ここも社会だ。しかし、一般的な社会ではない」
「分かりにくくなりました」
「ここの社会に馴染み過ぎ、ここが中心位置になった。だから、変わり様が分かりにくいんだ」
「具体的におっしゃってください」
「その服装では一般的な店屋には入れん」
「はあ」
「それで理解できただろ。それが認識できん状態に、君はもうなっているんだ」
「そ、そうなんだ」
 二人は土手の下の住み処で、さらにミーティングを続けた。
 
   了
 
 
 


          2007年8月11日
 

 

 

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