茶番劇
強く物申していた重臣達が一人、また一人と消えた。その反対派との衝突のためだろう。当然対立する重臣達は交互に消えていった。残ったのは穏健派。その中でも物言わぬ重臣達。どっちつかずの人達だが、重臣としての地位は高くない。牛耳っていた人達とは違い、静かにしていた。
しかし、その中にもできた人物がいる。敵がいないのは意見らしい意見を言わないためだろう。それに末席におり、高い地位ではない。
それで上席で牛耳っていた重臣達が共倒れし、数が減ったので、穏健派が上がってきた。色々な評議があり、それに加わることになったため、決め事をしないといけない立場になる。重臣会議の中では末席だったが、上が消えたので、中程の席になる。上席にいるのは隠居のような人で、これは飾り物。ただ重臣というより重石のような存在。
「いよいよ上がってきましたなあ」
その重石の竹中老が、穏健派筆頭の佐伯と雑談している。
「わしは見込みのある男だと以前から思っておった。そろそろかぶり物を取ってもいい時期じゃよ。ずっと猫を被っていたのじゃろ。五月蠅い連中はほぼ去った。今なら穏健派の天下じゃ。さて、どうする」
「いえいえ」
しかし、この穏健派、何を考えているのかよく分からない。実際には過激だったりするのだが、普段からあまりものを言わないため、分からない。大概のことは決まったことに従い、反対しない。だが、胸の中では反対しているのだろう。何かを胸に秘めているのかもしれない。竹中老が佐伯はどうなのかと、聞いているのだ。もし何らかのことがあるのなら、協力してもいいと。
だが、この竹中老が一番の曲者で、不動の地位にいる。彼こそが意見を言わない人で、意見のない人。だが、通らない意見は言わないだけかもしれない。それは穏健派筆頭の佐伯にも言えること。下手なところで争っても仕方がない。
上席にはまだ五月蠅い重臣が残っているが、二流だ。これは竹中老が押さえてくれるだろう。協力するというのはそのこと。
佐伯は穏健派筆頭だが、長老格の人もいる。佐伯を前面に出してきただけ。この人達もそれなりの実力者なのだが、口が重い。そして、そういう評定には加わりたくないタイプ。それに引退も近い。
「さて、どうなさる」
「いえいえ」
「あなたは天下を取ったようなもの。もう人物はいません」
「いえいえ」
「そう隠さず」
「いえいえ」
「あなたはいつもそのような受けごたえなので、得をしておられた。しかし、これからはそうはいきませんぞ」
「いえいえ」
「何が嫌なのじゃ」
「いやいや」
「だから、そのいやいやの中身を知りたい」
「申し上げられるようなものではありません」
「申してみい。わしは人畜無害。ただの漬物石。何の力もない」
「では」
「おお、申すか」
佐伯は評定など必要ではない。あってもいいが形式だけにすべきだと述べた。
竹中老はにやっとした。
ことを決めるのは、こんな会議ではないことをよく知っていたためだろう。
その後、佐伯が場を仕切るようになったが、全て茶番劇。
それもよかろうと、竹中老は、佐伯を応援した。
了
2020年5月19日