小説 川崎サイト



社長の朝

川崎ゆきお



 社長は毎朝喫茶店に来る。
 いつも社長と話している客がいる。
 社長は毎朝その時田と話している。ちょとした知り合いだ。
 その喫茶店で顔を合わせ、その後同席するようになった。
 社長はもう年寄りだ。時田も初老に近いが、まだ現役で働いている。
 社長は現役かどうかは疑わしい。隠居さんかもしれない。
 二人は待ち合わせて会っているわけではない。朝の喫茶店に来ているだけだ。二人ともそれ以外の時間には来ない。
 朝、コーヒーを飲みに来るのだ。
 時田はモーニングサービスを食べる。朝食代わりに来ている。
「社長、次のゴルフは?」
「一週間後だ」
「毎週ですなあ」
「腰が痛いよ」
「いい漢方あるんですけど、どうです」
「試してみるかな」
 そんな会話を毎日やっている。
 社長が早く店を出ることがある。どちらかが立ち上がれば、それで解散だ。
 社長が早く出た日は、時田は週刊誌と新聞を読んでいる。
 二人とも同じ時間に来るとは限らない。開店時間後、数分の誤差がある。家を出る時間は同じでも道路事情で、多少変わるのだ。
 会話には仕事の話はない。
 時田が社長の自慢話を引き出すパターンだ。つまり御世辞やベンチャラ攻撃だ。これは傍目では耳に煩いが、社長は満更ではない。
 ゴルフ場での社交より、安くつく。朝のコーヒー代で済む。
 時田が来た時、社長がなかなか現れないケースがある。
 社長の姿のない日の時田は静かな存在だ。
 時田も社長も店の人とは話さない。カウンター付近には朝の常連がおり、そのメンバーとは相性が悪いようだ。そこにも社長が何人かいるためだ。
 社長が来た時、時田がいないケースもある。そんな時はコーヒーを飲み終えるとすぐに出る。五分もいないだろう。
 忙しくて滞在時間が常に短いわけではない。時田がいる時は一時間以上話していることもある。
 社長は時田がいることを楽しみにしているのだろう。
 
   了
 
 



          2007年8月13日
 

 

 

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