小説 川崎サイト

 

準長老は妖怪


「世の中の変化より、私の変化の方が大きいようだ」
 妖怪変化が語っているわけではないが、それに近い人だ。それほどの年寄りではないので、長老ではないが、若くして老いていたので、下手な長老よりも風格がある。風格という外側ではなく、風貌だろう。これも外側に出るが、格を越えた威圧感がある。つまりより動物的な。それで、業界の妖怪だともいわれているが、ほんの数人。一般にはそんな呼び名さえ知らない。
 世間一般にも色々とあり、世間の捉え方も広かったり、多かったりする。
「また変化されましたか」
「自然にな」
「今度は何に化けられたのですか」
「内面だよ」
「じゃ、外に現れないと」
「そうじゃな」
「世の中の変化よりも激しいようですねえ」
「そうかもしれんが、どこまでが世の中、世間なのか、これは曖昧じゃ。大昔から何の変化も起こっておらんようなこともある。まあ人の生業など、ほとんど同じじゃろう。世は変われども、人の情は変わらぬもの」
「やはり、内面ですね」
「世間といっても広い」
「はい」
「世界情勢、国際情勢。これは広い。ここまで世間を広げて日常生活を営んでおるじゃろうか。せいぜい立ち回り先程度が世間だろう。一人の人間がそこまで広く関わることなどできんはず。世間のほんの一部と接しておるだけ」
「そうですねえ。もの凄い国際人で、世界を飛び回り、海外をよく知っている人でも、町内のこと、意外と何も知らない。それこそ世間知らずです」
「それ以前に家族が何を考え、何をやっているのかさえ知らなかったりしそうじゃがな」
「はい」
「世間の移り変わりよりも、自身の移り変わりの方が大事。そして、こちらの方が遙かに変化する」
「そういうものでしょうか」
「世間はコロコロと変われんだろう。しかし、個人はコロコロ変えられる。昨日の自分と今日の自分ががらりと変わっていたりする。何かの影響でな」
「それは世間の、世の中の影響を受けてですか」
「いいや、どんな世の中でも、同じこと。もっと内奥は世間とは遠い。世間の光も届かなんだりする」
 この業界の準長老。どういった変化があったのか、外からでは分からない。
 つまり、何を考えているのか、分からない人。だから薄気味悪い人なので一部の人から妖怪と呼ばれている。
 
   了

 


2020年6月8日

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