小説 川崎サイト

 

続けることの大事さ


「何か続けていることはありますか」
「毎日繰り返し続けていますよ。しかし、寝るとか、起きるとかは、続くものでしょ。しかし、眠りが続きすぎると問題ですがね。当然寝ないで起きたままが続くのも問題でしょ」
「そういう話じゃなく、毎日決めてやっていることで、続いているものはありますか」
「決め事ですか。それはあります。でも大したことはありませんよ。履く靴を決めるとか、行く店を決めるとかで、これも長く履き続けると飽きてくるし、店屋も違ったところへ行きたくなる。また違う品物やサービスなどがありますからねえ」
「習い事などはどうですか」
「毎日習っていますよ」
「おお、それはいですねえ、自分で決めて?」
「そうです。学習しないと、つまり、覚えたりマスターしないとジャガイモの皮一つ剥けない。従って肉じゃがやカレーは作れない。ハヤシもありますがね」
「だから、そういった日常的なものではなく」
「本を読んでいます」
「ああ、それはいい。非常によろしい。読書を続けているのですね」
「毎日読んでます」
「感心感心。それは続いているわけですね」
「はい、私は読書家でもないし、本が好きなわけじゃありませんが、毎日読んでます」
「それはどういう意味で続けられているのですか」
「色々と学ぼうと」
「ほう、じゃ、知識を身に付けるための読書ですね」
「そうです。苦手なのですが、続けています」
「それそれ、そういう知的生産の話をしたかったのです」
「でも普通でしょ。本を読むぐらいで、それが続いているとか、続いていないとかは」
「いや、読書離れで、読まなくなった人もいますからね」
「でも読書人なんて、いくらでもいるでしょ。それに、そんなもの無理に続けなくても、習慣になっているので、欠かせなくなっているんじゃないですか」
「いや、あなたのような人が本を読むとは珍しいと思ったからです。読まない人だと」
「そういうふうに見えますか」
「いえいえ」
「あまり、知的に見えないのでしょ」
「いえいえ、本を読む人が全員知的だとは限りませんが、続けているかどうかを知りたかったのです」
「続けているというより、続いていますよ」
「それは結構なことで、何かコツでもあるのですか」
「こんなもの、コツも何も、本を開けば済む話でしょ。まさかページをめくる手つきとか、めくり方の話じゃないでしょうねえ」
「違います。で、それで、どんなペースですか」
「さあ、日によって違いますが、五分か十分です」
「はあ」
「調子の悪いとき、もう少し粘るかもしれません」
「そ、それは」
「便所で読むからです」
「また臭いところに落とされましたなあ」
 
   了

 


2020年7月5日

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