小説 川崎サイト



亡者の池

川崎ゆきお



 池の中から亡者が湧いて出たような感じだ。
 池の周囲は植林され、歩道を取り囲んでいる。
 亡者が湧くのは早朝で、日の出前から蠢いている。
 ゾンビのようなのもいる。立ち止まっていない程度のスピードで歩いている。ランクの低い弓兵でも倒せる相手だ。接近される前に何矢か刺さるだろう。
 なかには素早い動きで走っている亡者もいるが、大人が歩く程度のスピードしか出ていない。
 しかし正面から見ると、手足の動きが早く、素早そうに見える。
 結局走っている亡者はいないが、歩くのと走るのとでは足の使い方が違い、歩くよりも走るほうが負担は遥かに大きい。
 走っているつもりではなく、本当に走っているのだが、もし、この亡者が歩くとどうなるのだろう。走ってそのスピードなら想像できる。
 走っているのか歩いているのかが分からない状態の亡者もいる。類人猿のような動きだ。
 亡者たちは池の周囲を何周もするようだ。
 そこは地獄の池かもしれない。鬼に追いかけられているのだろうか。必死な形相で逃げ惑っているかのように見える。
 鬼は亡者を脅すだけで、捕まえようとしない。捕まれば逃げ走る必要がない。だが、拷問のように走らされているのだ。
 座り込んでいる亡者もいる。鬼は無視し、捕らえない。
 亡者たちは決まった服装をしている。囚人服ではないにせよ、走らされるために着ている服装なのだ。
 どの亡者も大汗を流している。この汗が池を作ったわけではないが、血の池ならぬ汗の池の如くだ。
 塩分が多く、魚も棲めないだろう。
 真夏の太陽が上り、日差しが身を焼き出す。さすがに亡者たちの数は減る。
 木陰で倒れ込んでいる亡者もいる。毎朝この苦行を繰り返しているようで、慣れた倒れ方だ。
 地獄の釜も休む盆でも、地獄の池は開いているのだろう。亡者たちに休みはない。
 太陽がかなり上に来ると、亡者の数は減り、やがて、消えてしまう。
 どこから湧き出て、どこへ消えて行くのかは分からない。
 真冬はどんな光景になるのか、見て見たいものだ。
 
   了
 
 


          2007年8月16日
 

 

 

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