誰も来ないはずなのだが客が来た。
宮西商店は商店街のアーケード内にある。
トンネルのように暗いのは殆どの商店がシャッターを下ろしているためだ。
宮西商店は雑貨屋だ。日用雑貨を扱っているが、買いに来る人は地元にも、商店街にもいない。
「今日はー」の声を五回ほど聞いて宮西は店に出た。
一応店番はしているが、茶の間でテレビを観ているほうが多い。
「何かな?」
不審げに客に聞く。
「開いていますか」
「え、何が?」
「店が」
「うちはシャッターじゃなく、雨戸だが、開いとるぞ」
「いえ、営業しているかどうか」
「しておる」
「それはよかった」
客は店内を見回している。
宮西は久しぶりに店番の椅子に腰掛けた。レジに釣銭がないことを思い出した。
客は通路をうろうろしている。
「捜し物ですか?」
「七輪」
「左奥の瀬戸物のところにありますよ」
客は瀬戸物がどこにあるのかも分からないらしい。
宮西は七輪の前まで客を案内した。
「これですよ」
「コンロのことでしたか」
「昔はこれで魚を焼いたりしてたんだよ。ガスコンロができてから売れないねえ」
「もらいます」
「これだけじゃ、駄目だよ。炭とか、練炭がないと……」
言った瞬間、宮西は不吉な予感がした。
「もしかして、お客さん」
「魚は焼かないからいいです」
「え、どういうこと?」
「七輪であればいいんです」
「そうなの」
「個人商店で七輪を買えばいいのです」
「どうするの。こんなの買って」
宮西は懸念ごとを述べた。
「置いとくだけです」
「それは勝手だけど」
「これを北東の部屋の窓際に置けと言われました。七輪は個人商店で帰った物に限ると」
「何だ、まじないか」
「あってよかったです」
了
2007年8月17日
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