小説 川崎サイト

 

特異体質


「晴れましたねえ。梅雨が明けたのでしょうか」
「いや、まだ先です。この晴れは梅雨の晴れ間です。雨は一休み」
「そうですか。しかし暑いです」
「気温差が確かにあります」
「これじゃバテます。もう身体が怠くなっています。これはまずいです」
「大丈夫ですか」
「暑いと駄目です。じっとしているだけでもバテます」
「それは大変だ」
「また雨が降ればいいのですがねえ」
「すぐに降りますよ。まだ梅雨なので」
「しかし、あなたは大丈夫ですか」
「何が」
「この暑さ」
「暑さに弱い種族じゃありませんので」
「それはいい。じゃ、寒いのは駄目でしょ」
「いや、気温差の影響を受けない種族です」
「私は日がいけない。明るいのが駄目」
「じゃ、寒いところや暗いところは得意なのですか」
「得意という程じゃないですが、まあ、普通です」
「川北さんは強いようですよ」
「あの人はその種族ですから。しかし陽に当たると駄目でしょ。あのタイプは」
「そうですねえ。夜にしか外に出ていないようです」
「黒田さんはどうでした」
「あの人は雨に弱い。だから梅雨時は外に出ない。従って最近見かけることはない」
「雨に弱ければ、晴れに強いのでは」
「特に強いわけじゃないようです。晴れている日、特別凄くなるわけじゃないようです」
「田中さんはどうでした」
「あの人は月が駄目です」
「月」
「特に満月。これを見ると駄目になります」
「満月なんて、よく見かけますよ」
「欠けてる月ならいいのです。三日月とか。しかし満月がきついようです」
「完全な満月の夜ですか」
「いや、その前後でしょ。丸くなるとまずいようです」
「たいへんですねえ。ところであなたは」
「人を見ると駄目なんです」
「今、私が目の前にいますが」
「もう少し近付くと駄目なんです」
「今は」
「安全な距離ですが、あと十センチ」
「十センチって、微妙ですよ。少し前に屈めば」
「私もそうです。少し前のめりになれば」
「じゃ、一緒にやってみますか」
「試しますか」
「じゃ、同時に」
「はい」
 
   了



2020年7月20日

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