小説 川崎サイト

 

呪い師


「呪詛ですか」
「そうです。呪い殺してもらうのです」
「平安時代のようですねえ」
「今も綿々と続いています。呪い師が」
「そんな情報、何処で得たのですか」
「あなた、心療内科へ通っているでしょ」
「はい」
「私も、そこから得たのです。医者が呪詛処方をしたわけじゃありませんよ。その横の薬局へ行き、その医者の処方箋を渡せば、呪詛箋がもらえ、それで誰かを呪い殺す。というような治療ではありません。当然医者はそんなことはしません。そこに通っていた人の話です」
「どんな人ですか」
「心の病と言いますが、ほとんどの原因は人でしょ。特にビジネス街の心療内科の客は。あの人を除けば全て解決。または、自分からあの人と離れるため退職する。まあ、人が絡んでいるわけです」
「僕の場合もそれです。取り除いて欲しい人がいます。あなたではありませんよ」
「それで、その客が診療所の帰り道、不思議な老人に会ったそうです。これは客引きでしょ。呪い師の」
「呪い師」
「そうです。客を探していたのでしょ。その客から私が聞いた話なので、又聞きですが、できるだけその通り伝えます」
「はい」
「呪詛で人を殺す。これは殺人罪になりません。なぜなら呪ったりしても、人は死にません。因果関係がない。証明できません」
「じゃ、呪い殺し放題ですね」
「念とかを送っても、死なないでしょ。だから、呪い殺し放題にはなりません」
「そうですね。もし呪って人が死ぬのなら、そのへんでバタバタ倒れているでしょうねえ。しかし、殺したいほどにくい相手も、そういるものじゃありません。できれば、消えて欲しい人はいますが。もしそうなれば、どれだけすっとするか」
「その客の話では、その呪い師も、呪いで直接相手を殺せないと言っています。しかし、間接的には……」
「間接的」
「死にはしません。しかし、消えることがあるでしょ。職場から消えればいいのでしょ」
「僕はそこまで言ってません」
「その客の場合です。消えればいい」
「では、その呪い師、何処に呪いをかけるのですか」
「当然、消えて欲しい相手にです。しかし、直接苦しめるような念の力などありません。普通の人間でも、少し念の強い人間でもね」
「じゃ、何をやっているのですか。その呪い師は」
「相手の運命に対してです」
「弱そうな術ですねえ」
「運が悪かったってことはよくあるでしょ。一寸した狂いで、大変な事故になったとか」
「間接的とはそういうことですか」
「これが、私が聞いた、その客からの全てです」
「その客、その呪い師に依頼したのですか」
「断ったそうです」
「いいチャンスなのに」
「常識では考えられないので」
「僕にその客を教えて下さい、またはその呪い師のいるところを教えて下さい」
「その客から、それは聞いています。呪い師のいる場所は私が知っています」
「是非、教えて下さい」
「はい」
 
   了

 


2020年7月23日

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