小説 川崎サイト

 

杉田の顔色


 杉田という青年は仲間から一目置かれている。少し風変わりだが大人しい。自分から話すようなことは滅多にない。必要最低限のことは、自分から話すが、これは訊ねる程度。聞かないと用が果たせないときでも黙っている方がおかしい。当然そういう人は仲間もいないだろう。杉田も実際には仲間のいないタイプに属している。これが杉田の特長で、それでも仲間達とでも十分やっていける。だから孤立していない。孤立しているが仲間がいる。
 一目置かれているのは思慮深い性格のため。あまり感情を表さず、いつも冷静。仲間が熱くなっていても、その熱は受けない。といって協調性がないわけではなく、それなりに一応は反応しているが、出方が低い。
 杉田はまだ若いが、こういう人が将来大物になるのだろう。その片鱗が態度で出ている。仲間達もそれに気付いている。
 そして、何か困ったことがあれば、最終的には杉田と相談する。その判断は妥当で、安定感がある。
 また、相談しなくても、杉田の表情を見ていると、肯定か否定か程度の違いが分かる。だから杉田の顔色を見るだけで、済んだりする。会話はいらない。それに杉田はあまり喋らない。話すのが得意ではないようだ。
 要するに大人しく目立たないが、仲間の信頼を得ており、なくてはならないメンバーになっている。
 このメンバーにとり、うちには杉田がいるというのが誇りだが、お守りのようなもの。守護神。
 ある日、トラブルに巻き込まれた。杉田が登場するのは最後の最後。まだ出番ではない。
 しかし、このトラブル、かなり面倒で、杉田に相談するしかないと、もう早い目に杉田に声をかけた。
 杉田は状況を聞き、黙っている。
 何か策はないかと仲間達は聞く。
 杉田にもないようだ。というより、最初からないのだ。
 杉田の顔色が少し変わった。調子が悪いようで、答えに詰まっている。この答えとは、すっと判断を下すということ。それが今回できない。
 いつものパターンとは違うのではなく、調子が悪いのだろう。
 杉田の顔色が変わるのを仲間達は見た。これは余程凄いことになるかもしれない。余程凄いことが起こっているので、杉田の顔色が違うのだと。
 杉田はその日、腹具合が悪かった。滅多にない。そういうときは妙に落ち着かない。それが偶然、そのときにぶつかったのだ。
 仲間達は杉田の判断を待つ前に、その顔色を見て、方針を固めた。
 それで、無事、トラブルは解決した。
 この杉田という青年。最初から何もないのだ。今回それがバレそうになったが、仲間達はその後も杉田を大事にしている。
 
   了

 



2020年7月26日

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