小説 川崎サイト



竹細工

川崎ゆきお



「竹さんは今日もボランティアかい」
 竹さんは本名ではない。通り名だ。竹細工の名人だが本職ではない。
 数年前から小中学生相手に竹細工を教えている。学校の場合もあれば、その種の児童センターやイベントなどへ行っている。基本的に金銭は貰わない。
「暑いのに御苦労なことだ」
「収入になるんじゃない?」
 何人かが竹さんの噂話をしている。
「大した額じゃないよ」
「聞いたの?」
「それとなくね」
「よく続くね」
「食べるのに困らないからさ」
「気楽にできるね」
「欲がない」
「それはどうかな」
「そうだね、誰だって報酬は欲しいよね。竹さんはいらないって言ってるの?」
「そうは言ってないけどさ。貰えなくてもいいんだって」
「趣味だからね」
「でも凄いよ。竹だけでトンボとか作るんだ。本物そっくりに」
「やっぱり売れるんじゃない」
「売る気はないらしいよ。子供に見せるのが好きなんだよ。凄いと言われるのがね」
「分かる気がするなあ。まあ、そんな技術があればね」
「俺なら、商売のネタにするんだけどさ」
「売れそうじゃないか」
「手間を考えると、二の足を踏むねえ」
「で、今日は竹さん何処へ行ったのかな?」
「野外児童教室だってさ」
「暑いのにねえ」
「それがいいらしいよ。冬より楽しめるって」
「夏が好きなんだ。竹さんは」
「それはどうかな」
「違うの」
「違うと思う」
「子供と一緒に作るんだろ」
「手取り足取りね」
「竹細工が好きなんだね。だから教えたくなる」
「まあ、そういうことだけどね」
「何か、言いたそうだけど」
「俺にはその趣味はないからいいよ」
「え、どういうこと」
「想像できないならいいよ。そんなこと考えていると思われるといやだから」
「あっ!」
「分かった?」
「あれか……」
 
   了
 
 


          2007年8月19日
 

 

 

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