小説 川崎サイト

 

大人の心境


 状況が変わってくると、心境も変わる。状況に順応しようという側と、反発すぐ側がある。自然なのは順応だろう。意志的なものは弱いが、順応しようとするのも一つの意志。そのため、これまでと違うものに興味がいったり、また注目するものが変わってくる。それに心境の変化も加わり、好みまで変わる。大袈裟に言えば生き方も変わってくる。
 一方、反発の場合は、状況が変わったのに、これまでと同じようにやろうとする。順応ではなく拒絶。拒む。そして従来通りやろうとするが、状況が違うので、無理が出てくる。それで順調にはいかない。それで、仕方なく順応を考える。合わすしかないか、と。
 まあ、平たく言えば小学生が小学生のままの心境で生きていけないようなものだろう。少年少女の心を持ち続けている人はいくらでもいるが、ジュースで言えば果実五パーセントぐらい入っている程度。その割合ではジュースとは言えない。ただの清涼飲料水。しかし三パーセントに比べると果実度は高い。だから少年少女の心も大きい。ごく僅かな差だ。
「最近好みが変わったようですが」
「ああ、そうですか」
「何かありましたか」
「以前のように熱心にやらなくなっただけですよ」
「それはいけませんなあ」
「逆に熱心にはなれなかったものがよく思えたりします」
「それで好みが変わられたのですね。以前よりも穏やかになられた。大人になられた」
「じゃ、それまでは子供だったのですかな」
「そうじゃありませんが、若さの勢いというは時としてものを見えなくします。大人の落ち着きはそこが違います」
「もう随分と大人ですが」
「いえいえ、あなたはいつまでも無邪気で、子供っぽかった」
「じゃ、いい変わり方なのですね」
「そうだと思いますが、まあ、誰しもそうなるものです。あなたは少し遅かった程度」
「はい」
「これで、禍が減ります。あなたにとっては無邪気な行為でしょうが、邪気は邪鬼。そして子供っぽいので餓鬼」
「そうなんですか」
「これであなたも普通の大人だ。安心して付き合えそうです」
「はあ」
「お嫌ですか」
「嫌じゃありませんが」
「そうでしょ。心境も変化したことだし、寛容範囲も拡がったはず。僕のような何でもない人間にも興味を持って頂いたことだし」
「いえ、地味さが気になって」
「そうですか。それは有り難い。地味なので引き寄せるものがない。しかし、実際にはあるのですよ」
「はい、それが見えなかったのです」
「これからもよろしく」
「いえいえ、こちらこそ」
 
   了

 

 

 


2020年8月15日

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