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屋根裏部屋

川崎ゆきお



「古い木造の家でね。旅館のような家なんだよ。長い廊下があってね。もちろん黒光りのする木の廊下だ。堅いんだね、これが。いい材料を使ってる」
「廊下の話ですか」
「その廊下を奥へ奥へ進むと田舎道のように寂しくなる」
「細くなるんですか?」
「幅は同じだが、壁が多くなる。そしてかなり薄暗い。」
「普通の民家ですか?」
「大きな農家の母屋だ」
「その廊下が何か?」
「突き当たりの左側に階段がある」
「二階建てなんですね」
「その階段がまた暗い」
「階段の話ですか?」
「上っても上っても、先がある」
「そこで来ますか」
「上限のない階段」
「ありえないですね」
「だから怖いんだ」
「でも、単に長い階段なんでしょ?」
「三階分はある」
「二階を飛ばして三階へ直通ですか」
「三階建ての農家じゃない。屋根裏部屋へ繋がっているんだ」
「分かりました、屋根裏部屋専用の入り口なんですね」
「平たく言えばそういうことだがね」
「言い方で、かなり怖く聞こえました」
「いや、怖いんだ。これが」
「屋根裏部屋が怖いのですか」
「子供の頃だからね。廊下の突き当たりが怖かった。右側は裏庭に出る。蔵があったね。左側は納戸だと思っていた。引き戸は閉まっていて開かない。カギじゃないが、細工がしてあってね。開け方が分からなかった。それが屋根裏直通階段だったんだ」
「屋根裏部屋は何だったんですか?」
「屋根裏部屋だよ」
「何に使っていたんですか?」
「時代によるんじゃないかな」
「三船さんが見た時はどんな感じでした?」
「板の間だった。畳が積み上げられていた。文机や籐椅子もあったねえ」
「物置じゃないんですね」
「昔は蚕を飼っていたこともあるらしいがね。私が見た時は、部屋のような感じだった」
「誰かの部屋だったんですね?」
「あの階段を上らなければ行けないんだよ。部屋としては最悪だろ」
「そうですねえ」
「誰の部屋だったのですか?」
「今でも分からん。そんな人が住んでいれば分かるはずだ」
「聞かなかったのですか?」
「内緒で見たんだからね。聞けないさ」
「このマンションの三階で、妙なことが起こるのと関係しているようですね」
「同じ位置だからね。あの屋根裏部屋の高さと」
「はい、了解しました」
 
   了
 
 


          2007年8月20日
 

 

 

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