小説 川崎サイト

 

お盆の怪


 お盆の最中。草加は郊外にある農家が実家なので、そこで過ごした。いつもは空き家状態。何日かに一度は見に帰る。草加はその近くのマンションに住んでいる。
 しかし、正月と盆は実家で過ごす。既に誰も住んでいない兄弟やその子供が遊びに来る。草加は本家を継いだが、独身。
 しかし、今年は誰も遊びに来ないようで、草加は一人で実家でお盆を過ごした。仏壇があり、それをお盆風に飾り付けるだけ。先祖と自分しか見ていないので適当でいいのだ。
 灯明があり、電気仕掛けでゆっくり回る。それが回り出すと、カラオケ喫茶のようになる。
 草加の部屋はまだ残っており、まだ家具もそのまま残っていたりする。若い頃貼ったポスターとかも。
 弟が一人いるが、もうその部屋は空き部屋で、使っていない。がらんとしており、何もない。下手に家具があると、掃除が大変だ。
 妹の部屋もそのままだが、最近戻った様子はない。遠いところに住んでいるためだろう。しかし、何かあったとき、ここに戻れる。押し入れには蒲団も積まれている。結婚する前まで使っていたものがほぼ残っている。
 お爺さんやお婆さんの部屋は既に草加の両親が使っていたのだが、家具などはそのまま。祖祖母が花嫁道具として持ってきた立派すぎる箪笥がまだ残っている。
 どちらにしても取り壊すときは仏壇だけ持ち出せばいいという感じ。
 草加は二階の自室ではなく、一階の父親の部屋で寝ていた。階段の上り下りが面倒なことと、この部屋の方が北側の中庭に面し、涼しい。それに広い。代々当主の部屋として使われいた。
 その畳の真ん中に蒲団を敷いて、寝ていたのだが、人が来ているような気配がする。
 弟か、妹が帰って来たにしては、時間が遅すぎる。二人とも実家の鍵は持っている。
 先祖が帰って来るというが、草加は迎え火など焚かなかった。もうこの実家の近くでもやるような家は少ない。
 気配の方向は仏間の方。最初から仏壇のある場所ではないかと、草加は思っているためだろう。気配はするが、音はない。
 草加は板戸を明け、奥の廊下に出る。そのすぐ横にあるのが仏間の襖戸。祝い事や法事などで襖戸や板戸を開け放てば、かなり広いスペースになる。
 草加は襖戸をそっと開けてみた。誰もいない部屋だが、灯明は付けっぱなしにしてある。庭側の襖やガラス戸は暑いので、開けてある。
 回り灯籠が仏間に座っている人を灯台のように何度か照らす。
 先祖の誰かだろう。
 草加は、その前で正座し、挨拶をする。
 その人は、草加を見て狼狽した。
「すみません、間違えました」
 その人は、裏からさっと出ていった。
 
   了

 

 

 


2020年8月18日

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