小説 川崎サイト

 

人通り


 暑いためか、人出がパタリと止まってしまった。ただでさえ人通りの少ない商店街。しかし、そこが商店街なのかどうかは一見して分かりにくい。普通の道の両側に店屋らしきものがポツリポツリとあるだけ。店と店の間の家も以前は商店だったようだが、建て替えている家も多い。こじんまりとしたワンルームマンションや、駐車場がある。外れたところにあった郵便局が、この通りに移転してきている。以前は狭かったが、こちらは広い。
 数少なくなった商店だが、最後に閉店した店は意志ではない。上手くいかなかったからではなく、病気で入院したようだ。そのまま店は閉まったまま。まだ年寄りというほどでもない。この店は最近できたもので、歓迎された。減る一方のときに増えたので。
 意志ではなく病気、また景気とは関係なかった。常連客もおり、店はそれなりに営業していた。もったいない話だ。
 その横にクリーニング屋があるが、受付だけ。それが店じまいしたのだが、庇の上の看板などはそのまま残っている。樹脂製の大きなものだ。
 そこに店を開いた田中が、先ほどから通りを見ている。店舗内には売るようなものはない。以前は有名メーカーの特約店で、家電を並べていた。そのメーカーのものしか扱っていなかったが、大型家電店やネットに負け、個人の電器屋など住宅地では何ともならなかったのだが、修理がある。そのための部品などを保管する場所として、その店舗を借りたのだが、取り寄せればいいだけのことなので、残り物を置いているだけ。いつ使うのか分からないような品々だ。
 専用の蓋などがあり、この商品を売った覚えがある。そういうのを以前買った人がたまに修理に持ち込むのではなく、呼び出される。
 いずれも自転車でも行ける距離で、家電なので電化製品は当然家の中にある。もう既に取り寄せるにしても部品はなかったりするが、仲間の誰かが持っていたりする。
 また、部品を作るという内職をしている人もいる。
 田中はそんな感じで、修理や取り付けに出掛けたりするのだが、そのついでに買い換えということで、注文を受けることもある。当然まだ特約店なので、売ることができる。これが本業なのだが。
 田中は通りを見ている。猫の子一匹いない。まあ、猫を探すほうが難しかったり、さらにその子猫となると、滅多にいない。だが、犬の子はいる。炎天下でも散歩のおねだりをしたのだろうか。
 そういう猫も犬も人もピタリ止まったのだが、たまにあることだ。車も入ってこない。
 盆明け後の数日間、たまにある。まだ暑いので外に出る人が少ないだけの話で、これは見ている人がいなければ分からない。
 そのとき、電話が鳴った。何か異変を知らせる音のように聞こえた。
 出ると、天井の蛍光灯が切れたので、という用件だった。
 田中は近いので、歩いて行くことにし、表の通りに出た。これで、ピタリと人の姿が消えた通りではなくなった。
 
   了


2020年8月25日

小説 川崎サイト