小説 川崎サイト

 

台風男


 台風一過で涼しくなった。夏が終わったのか、途切れたのかは分からない。台風が去ると晴れるものだが、雲が多く、雨も降っている。台風は遠くの方に去り、そのとき連れてきた雲が来ているのだろう。この雲が雨雲で、それで雨。しかし、その上空にあるのは夏空か秋空かは分からない。ただ気温は下がっている。これは夏でも雨が降れば下がるだろう。
 台風は季節をかき混ぜる。平常の季節の移り変わりとは別に、これが加わると計算が狂う。台風も季節ものだが、発生する期間が長い。冬以外発生しているだろう。
 倉橋はこの台風が去りきったあと、空模様がどうなるのかを心配しているわけではない。遠いところを通過しただけなので、影響はない。これが大きな台風が接近中の場合は心配するだろう。ただ、この心配の度合いはそれほど高くはない。台風で外に出られないので困る程度。家が吹き飛ばされるとか、洪水で家が流されるとかは考えていない。
 台風が心配なのではなく、台風男。その男が来襲するのではないかと、心配している。この男が来ると日常がかき乱される。たまにはそんな刺激もいいのだが、あとが大変。台風男が通ったあとは草木が育たないというわけではないが、かなりダメージを受ける。これはただ単に疲労だろう。疲れるのだ。
 今年はまだ台風男が来ない。いま何処にいるのかも分からない。住所をよく変える。そして音沙汰が全くなかったりする。連絡を取り合っていないのだ。来るとすれば向こうからで、こちらからは行ったことはない。日常内に取り込むには危険なため。そういった音沙汰がなく、かなりの期間合っていない旧友などいくらでもいる。だから台風男もその中の一人だが、凶暴なのだ。だから注意が必要。
 台風は予測できるが、台風男はできない。いきなり来る。
 倉橋は平穏な暮らしをしているわけではなく、最近煮詰まってきて、身動きが取れない。だから、あまりよくない。何とか活路を見出したいのだが、実行するだけの勢いがない。何とかこの閉塞感から抜け出そうとしている。
 こういうとき、台風男にかき混ぜてもらいたい。来てくれるのを半ば期待していたりする。来られては困るが、刺激も欲しい。彼が来ると活性化する。
 夏の終わりがけから秋にかけての台風。そのシーズンに台風男もよく現れる。年により二度も三度も。それは台風男の当たり年で、数年ほど姿を現さないこともある。去年は来なかった。だから、今年は来る可能性が高い。冬場は来ない。秋が危ない。
 そういうことを思いながら倉橋は台風一過で晴れるはずの空が雨ですっきりしない下を歩いている。気温が少し下がった程度で、これだけでもありがたいのだが、台風一過の晴れ晴れしさを見たい。
 台風男。台風男一過、彼が来て暴れまくり、そして去って行く。その翌日が意外と清々しく、晴れ晴れとした気分になれる。去ったことによる安堵感だろう。
 やはり倉橋は暗に台風男を待っている。
 
   了


 


2020年9月7日

小説 川崎サイト