小説 川崎サイト

 

元気にならない人


 季節の変わり目のためか、上田は身体が怠い。寒くなってきたためだろう。そうかと思うと、また夏のように暑くなる。これで体調が狂う。折角涼しさに慣れてきたのに、また戻される。
 暑い寒いが行ったり来たりし、それに振り回されて、体が付いていかない。
 それでこの一週間ほど、上田は元気がない。気持ちは元気だが、身体が元気でないと、これもまた付いてこない。当然身体が元気なときは、気持ちも元気。気持ちだけ元気ということはない。身体が先で、気持ちはあとだ。気持ちというのは気の持ち方だが、具体的なものが先に来ないと、持ちようがない。
 夏バテが今頃出たのだろうか。遅い。
 コスモスが咲き、彼岸花が咲くと、もう秋の駅を通過中。今頃夏バテなどない。しかし、夏場の疲れが今頃出るのかもしれないが、疲れるようなことはしていない。
 夏場は暑さが先で、これで覆い尽くすので、体調の悪さなどは、全部暑さのせいにし、それほど気にならない。
 しかし、寝込むほどのことではなく、一寸気怠いだけ。日常生活に支障はないが、元気がないと損をしているように思われる。同じことをするにしても、元気なときにやる方が気持ちがいい。
 風邪を引いたとき、いつまでも風邪が抜けないで、しんどいときがある。それに似ている。引き込んだものは抜けばいい。風邪程度なら、そのうち抜けるだろう。
「元気がないようですねえ」
「ああ、ここしばらくは」
「そのまま大人しくしてもらえれば助かるのですがね」
「そうですか」
「君が元気なときはろくなことがない」
「そうなんですか」
「まあ、しばらくは静かにしてもらった方が助かる」
「また、元気になりますよ」
「困るんだがねえ」
「いえいえ」
 上田の回復を望んでいない人もいる。
 しかし、元気さの抜けた上田は丁度いいのか、いい感じだ。
 そして上田は低いテンションのままの方が評判がいい。誰もが好意を持ってくれる。上田は良くなったと。
 今まで相手にしてくれなかった人も、上田の様子を見て、安心したのか、交流が始まった。
 ということは元気になってはいけないのだろう。
 その後、上田は身体も回復し、気持ちも元気になったが、そのことを隠した。
 元気のない振りをしている方が得なので。
 
   了
  
 



2020年10月3日

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