エリートコース
優秀な部下が加わった。大城は喜んだのだが、一度も使わない。評判も良い。実績もある。しかし、それはまだ未知で、これからさらに伸びるのか、そのままなのかも未知。
小学生の頃、一番背が高く体重もあり、がっしりしていた子が中学になると縮んでしまい、背も中程の普通の体型になる。それに似ている。あるところで止まり、その後、追い越される。
だが、その白木、エースとされ、誰もが期待している。それが大城の部下に加わったので、喜んだ。他の部下よりも垢抜けしており、見るからにできそう。
しかし大城は白木をなかなか使おうとしない。切り札として温存しているわけでもなさそうで、どちらかというと避けている。もったいない話だ。
大城が思うのは、その期待感の大きさ。これに麻痺した。やられた。
蓋を開けるのが怖い。それで、誰にでもできる単純なことしか頼まなかった。
白木にとってはたやすい仕事ばかりなので、楽といえば楽。
「何故白木君を使わないのだ。強い戦力になると思い、君に預けたんだよ」
「怖いのです」
「何が」
「白木君が」
「何かあったの」
「いえ、何もありませんが」
「じゃあ、どうして怖いんだ」
「期待していたものと違うかもしれないからです。実はもの凄く期待しているのですが、それだけ期待しすぎているのです。だから、怖いのです。使うのが」
「ほう」
「期待通りならいいのですが、違っていた場合、がっかりしますからね。それを見たくないのです」
「白木君の略歴を見ただろう。よくできる人間だ。だから将来は幹部になる。それまでの間、各課で遊んでもらう。これをエリートコースという」
「私は乗れませんでしたが」
「わしもじゃ」
「要するに、すぐに去る人なんでしょ」
「まあな」
「じゃ、カンフル注射です。漢方薬のような人が欲しいのです」
「それで使わないのかね」
「使いたいです。しかし、結果が怖い」
「妙なことを言うねえ」
大城はその後も白木を使わなかった。そして次の人事異動のとき、さっと消えた。当然だ。
もう部下ではなくなった白木と大城は二人だけになる機会ができた。
「どうして私を使わなかったのですか。おかげで楽でしたが」
「今の部署では、どうですか」
「同じです。使ってくれません」
「やはり」
「どうしてでしょうか」
「使いにくいからです」
「それは分かっていました」
「折角各課で色々な経験を積むいい機会でしょうが、逆ですねえ」
「はい、その通りです」
「あなたは優秀すぎるのです。だから使えない」
「やはり」
さらに人事異動があり、白木は変わり者の課長の部下になり、大事な仕事を任された。
ところが、散々な結果しか出せなかった。
蓋を開けるとスカだったようなもの。
どの課でも、遊んでいたため、鈍ったのだろう。
了
2020年10月21日