小説 川崎サイト

 

話の持参人


「今日はどうですか」
「昨日の続きです」
「何か、続けられているものがおわりで」
「いや、昨日の繰り返しです。だからその繰り返しを続けているだけ。言ってみれば変化なしで、毎日似たようなもの」
「それじゃ、退屈でしょ」
「いえいえ、繰り返すといっても同じじゃないので、それなりに変化があります。また繰り返し方が下手な日もありましてねえ。そういう日は調子が悪いのか、何かバランスが悪いのでしょう。そういう変化があるので、それを見ていると意外と飽きませんよ」
「同じことの繰り返しではないと」
「まあ人は何かを繰り返しているでしょ」
「それはまあ、そうですが」
「それで、何か」
「いえ、退屈されているのではないかと思いまして、いい話を持ってきたのですが」
「もう話に飛び乗るような年じゃありませんから」
「そうですか」
「それよりも、あなたはどうなのです。そんなインチキ臭いことばかり繰り返しているようですが」
「今回の話はインチキじゃありません」
「じゃ、前回はそうだったと」
「あれは特殊です。私も気付きませんでした。これは不可抗力。いい話だと思い、持ってきたのですがね」
「その前もそうでしたよ」
「あれも例外です。私の本意じゃありません」
「で、今回は」
「はい、では始めましょうか」
「その前に、その話、あなたは乗ったのですか」
「え」
「だから、乗ったのですか」
「いえ、まだ乗っていませんが」
「じゃ、あなたが乗ったあとに、また来て下さい」
「じゃ、一緒に乗りましょう。それならいいでしょ」
「泥船ですね」
「沈むときは私も一緒ですから」
「おお、それは責任感が強い」
「そうでしょ。だから自信があるので、持ってきたのです。いい話です」
「しかし、私にはもうその元気がない。昨日と同じことの繰り返しをやっている方がいいのです」
「そうですか。残念です」
「それで引っ込みますか」
「はい、帰ります」
「それ以上追わない」
「はい、しつこくは」
「良い人だ。そんな良い人がいつもどうしてややこしい話を持ち込むのでしょうかねえ」
「好きなもので」
「困った人だ」
「はい」
 
   了

 


2020年11月12日

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