小説 川崎サイト

 

陽だまりの老人


 秋の終わり頃、少し暖かい日があった。木陰ではなく陽だまりがあり、そこで腰掛けている老人がいる。座る場所などない。空間はあるが、座るための何かがない。しかし落ち葉が絨毯のようになっており、ないよりはまし。これが雨の降ったあとなら濡れているが、かさっとしているようだ。木の葉の紅葉、それを下で見る。そして触れる。老人はそんなことをしたくて座っているわけではなさそうだ。
 観察者が想像しているだけ。
 老人は膝を立てて座っている。たまに脚を伸ばす。左右交互に。杖などは持っていないようだが、小さなショルダーを斜めがけしている。その中からタバコを取り出し、火を付ける。
 路肩だ。しかし車はほとんど入ってこない。すぐに行き止まりになることを知っているためだろう。
 行き止まりだが人や自転車が通れる隙間はある。そこを抜ければ大きな道路に出られる。出てすぐのところにバス停がある。バスから降りた人が、その細い通路から老人のいる道を通っていく。
 先ほどからそれを見ていた上田は、逆方角から来ている。バス道へ出るため。
 バス停があることは知っていたが、乗ったことがない。いつも行き先の文字を見ているのだが、そこも行ったことのない町。聞いたことはあるし、駅もあるので、通過したこともある。バスでもそこへ行けるのだが、用事がない。
 用事がなくても行ってみようと思い、バス停へ向かっていたときに見たのが、この座っている老人。歩き疲れなら、バス停まで行けばいい。そこにベンチがある。
 わざわざ路肩で座っているのは陽だまりができているためだろう。いい観察力ではないかと上田は思った。その思いが当たっているかどうか、確かめるため、老人に声をかけた。
 老人は目を細めて、そうだと答えてくれた。
 上田は予想が当たったので、満足し、そのままバス停へと向かった。
 念のためというか、背中に視線を感じるので、振り返って老人を見たが、姿がない。しかし、視線を感じたのは確か。
 老人が座っていたところには枝道はない。次の交差点まで少し距離がある。去ったとしても早すぎるし、何処へ消えたのだろう。
 上田は妙な気配を感じ、老人が座っていた落ち葉の絨毯を見る。別に変化はない。そして周囲を見渡した。
 抜け道などない。道沿いは普通の住宅地。そして横へ抜ける場所はない。
 近所の人が外に出ていただけかもしれない。そしてさっと戻ったのだ。
 陽だまりのある前の家の人かもしれない。すぐに入ってしまったなら、消えたように見える。きっとそうだろう。
 上田はそう納得し、バス停へと向かった。
 
   了

 


2020年11月13日

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