小説 川崎サイト



裏ビデオ

川崎ゆきお



 住宅地の片隅にビデオ屋があった。販売専門店だ。表通りからも遠く、町内の人が気付く程度の寂しい場所だ。
「それは一昔前の話ですね」
「最近行ってないから、まだあるのかどうかは不明だ」
「駐車場はありましたか」
「あったね。それが緩衝空間になっていた。駐車場の奥に店がある感じで、周囲の民家とはいきなり接していない」
「そういう店は裏ビデオやってますね」
「もうビデオテープの時代じゃないからね。もうないと思うよ」
「じゃあ、裏DVDを並べているんじゃないですか? いや、決して陳列はしていないと思うけど」
「しかし、そんな辺鄙な場所へわざわざ買いに行くかね。入手方法はいろいろあるだろ」
「いや、まだリアルでの入手を必要としている人もいるはずですよ」
「さあ、その需要に関しては何とも言えないから、否定はしないけど……」
「場所、教えてもらえます」
 三村は地図を書いた。
「カーナビで行けるかもしれません」
「もう何年も前の話だよ。道路は同じだろうけど、あるかどうかだ」
「行ってみます」
 堀尾は車でその町内に入った。会社の帰りに足を延ばしたのだ。
 そういう店が見たかっのだろう。つぶれていても問題はない。秘密めいた場所へ行くだけでもよかったのだ。
 三村の地図は正確だった。カーナビの道路とも重なった。
 そして大きな駐車場の前まで来た。確かにそこだけ運動場のようにポカリと空いている。
 その奥に建物があり、看板らしい文字も確認できた。
 裏路地書店と読めた。
 窓はぴたりと閉まり、店内は見えないが、看板は電球で明るく浮かび上がっている。営業しているのだ。
 堀尾は広い駐車場に車を入れた。そして一直線に店の前まで行き、ドアを開けた。こういう店へ入るのが好きなようだ。
 老人が奥で本を読んでいる。堀尾へは視線を投げない。礼儀を心得た老人だ。
 堀尾は棚を見た。
 日本文学全集がずらりと並んでいる。古書店なのだ。
 百科事典もある。どこかの家がゴミで出したような本ばかりだ。
 児童文学全集もある。こういう全集が出ていた時代もあったのだろう。
 しかし、カムフラージュとしてはやり過ぎだ。
「ウラありますか」
 三村はダイレクトに聞いた。
 老人はぐっと三村を見た。
「裏はあるが、庭だ」
 
   了
 
 
 


          2007年8月29日
 

 

 

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