小説 川崎サイト

 

限界越え


 限界を超えると、そこで終わってしまう。いつもは限界内でやっていたのだが、その限界内にもレベルがあり、非常に高い限界内もあれば、それほどでもない限界内もある。その場合、限界など考えなくてもいい。限界を超える必要がないため。
 限界内での戦いがあり、競い合いがあるし、自分自身に対しても挑戦する良さもあるが、いずれも限界内での話。
 限界を超えるのは実は簡単なことで、一つの歯止めを外せばいい。これは誰にでもできる。限界内から見ると、それは反則。禁じ手。御法度だ。
 要するに御法度の裏街道を行くようなものだが、裏とは限らない。堂々と表街道も歩けるが、御法度破りにはかわりはないので、限界内の人から見ると、これは本来のものではないと感じるだろう。
 限界内だけでは不足で、また不満な場合もある。限界すれすれの箇所はほとんど限界を越えたところと変わらなかったりする。しかし限界内。戦いはそこが主戦場だったりする。
「その戦いに疲れました」
「それで第一線から引くのかね」
「ゆとりがありません。余裕も」
「しかし、すれすれのところが良いんだ」
「別にすれすれでなくてもいいんじゃありませんか」
「じゃ、大人しくなるよ」
「はい、もう大人しいのでいいのです」
「君がそう望むのなら、そうしなさい」
「有り難うございます。これでほっとしました」
 しかし、似たような人が大勢いて、大人しいところも満員だった。ここはここで競い合っていた。大人しさ加減ではなく、かなりのセンスが必要だったためだろう。だから、事情は変わらない。何処にいても、人がおり、それなりに競い合っている。
「多いです」
「大人しくはないか」
「はい、それで、もう一段下げたいと思うのですが」
「それを望むのなら、そうしなさい」
「はい。有り難うございます」
 さらに大人しく、地味なところにも大勢の人がいた。そこでは何を競い合っているのかは分からないが、決してのんびりできる場所ではなかった。
「駄目でした」
「じゃ、限界を超えるか」
「それは」
「その方がすっきりする」
「でも御法度破りになります」
「そうだね。そうなると、君ともおさらばだ」
「はい」
「じゃ、どうする」
「さらに下げてみます」
「同じことだと思うが」
「下げすぎるほど下げます。そちらへ向かっての挑戦です」
「君がそれを望むのなら、やってみなさい」
「有り難うございました」
 しかし、そこはずぶの素人の世界だった。
 下げすぎたようだ。
 
   了
 


 

 


2020年11月29日

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