小説 川崎サイト

 

極月


「極月ですなあ」
「十二月ですね」
「北極と南極。極まったところ」
「月を極めるわけではないのですね」
「誰が」
「そうですねえ、でも個人的にはこの月を極めたいところです。最後の月ですから、いい感じで終えたい。一年の締め括り、十二月に入ったばかりなので、まだ一ヶ月ある。この一ヶ月で勝負したい」
「何か、そういう用事でもありますか」
「ありません」
「じゃ、極める必要はない」
「そうですねえ。しかし、いい感じでこの月を過ごしたいですよ。世の中忙しそうですが、私は暇なので、差し迫ってきても問題は何もありませんがね。あとは気分の問題です」
「十二月に入って早々年越しの心構えですか。それはまだ早い。クリスマスもある」
「十一月末から感じていましたよ。年越しを」
「まあ、いい感じで除夜の鐘を聞くか、悪い感じで聞くかでは違いますからね。気持ちが」
「そうでしょ」
「しかし、今から年末年始のことを考えるのは少し早いかと」
「いえ、正月に、もう年末のことを考えていましたよ。その後、忘れましたが、一年前から年の終わりを考えていたのは確かです」
「何故途中で忘れたのですか」
「正月行事が終わったからでしょ。普通の日に戻ると、もう年末や年始のことなど、思わなくなるものです」
「それで極月に入ると、再び浮上ですか」
「残り一ヶ月だと思うと、気持ちも迫ってきます」
「しかし、特に何もするようなことはないのでしょ」
「細かいことは色々あります。掃除とか、片付けとか、やり残していることが多い」
「家事ですな」
「そうです。埃が溜まっている家具の隅とか、奥とかが気になったりしますが、まあ大掃除はしませんので、普段からやっておくべでしょうねえ。だから残り一ヶ月の間は少しピッチを上げようかと」
「暇であっても暇ではないと」
「そうです。用事はいくらでもあります」
「平和なものです」
「あなたはそうじゃないと」
「厳しい年末になりつつあります」
「それは大変だ」
「私もあなたのように、家具の隅の埃だけが気になる年の瀬を過ごしたいものです」
「あ、そう」
 
   了

 


2020年12月6日

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