小説 川崎サイト

 

懸念


 懸念していたことが起こらなかったので、里中はほっとした。もし起こっていても大したことにはならないが、面倒なことをしないといけない。その面倒も難しい面倒ではなく、よくある面倒。しかし、面倒臭い。これが臭いので、懸念が起こらないことを願ったが、起こるだろうと仮定し、それがほぼ当たっている確率の方が高いので、面倒臭いことをする覚悟までしていた。ただ、覚悟というほどの凄いことではない。日常的なことかもしれない。難度は低い。
 懸念、それはいくらでもある。しかし、普段はそこまで思わないため、数は限られている。そして予測され、しかも確実にやってくるタイプは分かりやすい。問題はいつ起こるのか分からない場合。これは心配し出すときりがないので、普段から心に留め置くようなことはない。そうでないとパンパンに懸念が増え、懸念だらけの生活になる。
 里中はそういった懸念が解決、またはクリアした後、何か楽しいことを用意しておくようにしている。それが餌だ。ご褒美のようなもの。そしてそのご褒美は懸念前に使わないようにする。まあ、単純なプレゼントのようなものだが、これは絶対に必要なものではない。だから半ば贅沢品。
 それは旅行でもいいし、一寸したイベントへ行くのでもいい。いずれも実行しなくても困らないようなこと。
 懸念の前日は落ち着きがない。いつものような暮らしぶりをしていても、どこか違う。懸念のない日常に早く戻りたい。昨日と同じようなことが今日も起こるような。昨日とは全く違うところに立たされる今日ではなく。
 自分の意志で立つのならいいが、立たされる。そして時間もそれで取られる。いつもの日常の節々にはないシーンが挿入される。
 もし昨日と同じような日なら、今頃あれをしていた、これをしていたと思う。そしていつもの日々が如何に平和なのかを思い知らされる。それほど楽しい日々ではないのだが、変化のない穏やかさでパターン通りが繰り返される。つまりワンパターンの良さ。次に何が来るのかが分かっている。これが本当は良いのだろう。
 懸念。心配してもしなくても起こることは起こる。起こらないことは起こらない。だから、心配しても仕方がないのだが、その懸念が去ったあとのほっとした気持ちは、心配してこその収穫だろう。
 
   了
 
 


2020年12月15日

小説 川崎サイト