小説 川崎サイト

 

勢い待ち


 勢いというのは向こうからやってくる。また向こうからやって来ないと勢いとはいえない。勢いは自分で盛り上げていくことでも勢いよくなるが、ただの気分だろう。そこで完結してもいいのだが、盛り上がりに欠く。一人芝居のように。
 やはり向こうから勢いが来ないと、盛り上がらない。勢いを呼び込むようなものだが、待ち受けるだけのものを持っていないと、素通りしていく。そして興味も引かなかったりする。だから受け皿が必要で、待っているものがないと駄目だろう。
 そして普段から注意深く、その動向を見ていること。そうでないと、勢いが向こうからやって来ているのに、見えない。当然興味のないものは最初から見えていても見えていないが。
 ずっと待っていると、向こうから勢いがやって来る。勢いを呼び寄せたのではない。見逃さなかっただけ。
 ただ勢いには浮き沈みがある。別にそのものが沈んでいくわけではないが、興味が沈むと、勢いが盛んなものが来ても、値は低い。
 だから勢いは、まずは自分から盛り上がっていくことから始めることになる。盛り上がりのないところに勢いのあるものが来ても、知らぬ顔だろう。
 だから最初は自己完結で自己満足でもかまわない。それに、勢いがあるだけでも大したもの。また、そういった盛り上がるものを持っているだけでも大したもの。
 まあ、普通の人が普通に盛り上がるようなものは世の中には沢山あるので、珍しいものではないが、少し掘り下げたところのあるものは共有する人が少ないだけに、少数の人しか盛り上がらないような事柄になる。
 この少数の人、というのは、それだけ狭い世界で、より個人的な面が出ているところ。一般の人にとり、どうでもいいようなことだったりする。それに、これも受け皿の問題で、それがない人にとってはただの皿。
「長い説明ですが、結局どういうことが言いたいのですか」
「はい、勢いが落ちましたので」
「だから待機して、勢いがやって来るのを待つわけですか」
「いえ、自分からも色々と仕掛けますが、結局はその先は待つしかもう方法はありません」
「それで、今日もぼんやりしているのですか」
「釣り糸を垂らさないと魚は釣れません」
「で、釣れるのかね」
「それは何とも言えませんが、そのうち」
「本当に勢いが向こうから勝手にやって来ると思うのかね」
「はい」
「あ、そう」
 
   了

 


2020年12月23日

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