小説 川崎サイト

 

最後の一葉


「紅葉狩りへは行かれましたか」
「もう終わりでしょ。冬ですよ。もう、雪もちらついていました」
「いや、まだ残っていますよ。色づいた葉が。残り物には福が付くと言いますから、最後の一葉見学が良いのですよ」
「付くのですか」
「そうです。福が付きます」
「福付きの最後の一葉ですか」
「そうです。今ならまだ間に合うどころか、まだ早いかもしれませんよ。結構葉は残っていますので、これからが旬です」
「旬」
「この時期でしか得られない福です」
「福笹じゃなく、福葉」
「黄色が良いです。赤よりも」
「分かります。黄金色。小判の色ですね」
「福笹に小判を飾ることもあるでしょ。金運を招くためのトッピングです。しかし黄色い葉ならその必要はありません。小判は最初から付いてます」
「それは見ているだけでいいのですか」
「そうです。枝を折って持ち帰らなくてもいいのです。持ち帰ったとしても、すぐに落ちるでしょ」
「見るだけ?」
「そうです。見るだけ」
「それで効用はありますか」
「さあ」
「じゃ、ただの淋しい紅葉狩りですねえ」
「黄葉狩りです。または効用狩りです」
「行ってもいいのですが、淋しそうです。それにもう寒いですよ」
「そうですねえ」
「あなたは行くのですか」
「まだ早いので、もう少し経ってから」
「しかし、最後の一枚の黄葉だと思っていたら、まだまだあったりすると、最後になりませんよ」
「それは承知しています。まだ残っている葉が別の木の枝に付いていたりしますが、それはいいのです」
「何がいいのですか」
「どれかにあたりがあります」
「おみくじですねえ」
「だからポツンと一葉だけ残っているものなら、どれでもいいのです。しかしスカかもしれませんがね」
「はあ」
「で、去年も行かれたのですか」
「去年は体調を崩して行けませんでした」
「それは大変だ。今年は行けるのですね」
「そうです」
「私も行きたくなりました」
「近場でもいいのですよ。ただそれだけを目的にして行くことです。最後の一葉だけが目的で、他のことはしない。まあ、戻り道なら問題はありません」
「そういうこと、何処で教わったのですか」
「オリジナルです」
「あなたが作ったのですか」
「作ったというほどじゃありません。それにそんなこと行事化しないでしょ」
「はあ」
「だから良いのです。効きそうですから」
「御利益は小判ですか」
「私はそれを願っていますが、別のものでもいいんです」
「いやいや、貴重な話、有り難うございます。何か行ってみたくなりました」
「そうでしょ」
「はい」
 
   了

 


2020年12月25日

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