小説 川崎サイト

 

闇の前兆


 一歩先は闇なのだが、いきなり来る闇もあるが、その前兆がある。徐々に薄暗くなるような。これなら二歩のちはさらに暗く、三歩後はもっと暗くなり、闇が近付いて来ることが分かる。徐々に闇が深く、濃くなっていくのだから、さらに進めば暗闇になるだろう。しかし闇そのものは真っ暗なので、まだそこまで行かない暗さだろう。
 一歩先、少し暗いが二歩目は戻っていたりする。その後、暗くならなければ、闇の前兆ではなかったことになるので安心できる。
 不安なのは歩を進めるごとに暗くなる状態。それでも途中で明るさが少し戻り出せば、安心する。
 当然、それは闇の一休みで、また暗くなりだすと、また不安になる。
 安田は闇の前兆を感じ続けていた。だから一寸先は闇ではないものの、悪い兆しが出続けており、それが消えない。
 その闇とは悪いことだが、どの方面かは分かるが、まだ正体が定まらない。まだましな明るさなので闇の只中にいるわけではない。
 それで不安でたまらない。別に支障はまだ出ていないが、不安で少しおかしくなる。この先、来るかもしれない闇のことを思うためだろう。
 その前兆、すっと消える可能性もある。それならいいのだが、なかなかその状態にならない。
 前兆は具体的に来ており、ただの想像ではない。だからこそ不安になる。一歩一歩近付いて来ていると。
 想像なら思い違いもあるし、別の判断もあるし、また錯覚かもしれない。だが、具体的な前兆は抜き差しならない現実であり、闇の一部なのだから。
 だが、闇の全体はまだ見えてこない。
 日常生活にそれほど支障は出ていないのだが、いつもの日常とは少し違ってくる。何でもない普通の日常、それに早く戻りたい。
 一寸した楽しみ、そういうものが日常内にはある。不安があると、それを楽しめない。
 日常の中でポツリポツリと起こる前兆。安田はそういうことにひと一番敏感なので、気になって仕方がない。
 それがある日、ブツンと消える。早くその状態になり、ああ、あのときは怖かったなあ、と思い出にしたいものだ。
 さて、どうなるのか。一寸先は闇だが、少しだけその前兆が見えている闇。これは怖いだろう。
 一寸先は闇。これは安田だけの話ではなく、誰にでも当てはまるだろう。
 
   了

 


2021年1月22日

小説 川崎サイト