小説 川崎サイト



足埋め

川崎ゆきお



「古式療法だと聞いて来ました」
「こんな田舎まで来られるのだから、お嬢さんは達者じゃないか」
「もう、お嬢さんの年ではないです」
「で、どこが悪いのですかな?」
「何となく体がだるくて、寝たっきりで」
「起きているじゃないですか」
「毎日じゃないです。今日は元気を奮い起こし、来ました」
「お医者さんへは?」
「行きました。漢方とか東洋医学とかへも」
「お断りしておきますが、私は医者ではありません。民間療法です。私を医者だと思わないでくださいよ」
「承知しています」
「ちょっと手を握っていいですか? ちょっとだけです」
「はい」
 老人は娘の手を軽く握った。指先を握ったと言う方が正しい。
「足の裏を見せてもらえますか。裏だけで結構です」
 娘は、足を畳の上に延ばし、老人に向けた。
「もう少し足の裏を上に」
「娘は、腹に力を入れ、足を浮かした」
「結構です」
「どんな方法があります?」
「庭はありますかな?」
「実家にありますが、それよりどこが悪いのでしょうか」
「庭があれば治るかもしれません。試してください。一人でできなければ手伝ってもらいなさい」
「どこが悪いのでしょうか」
「要するに体調が悪いのでしょ」
「それは、まあ、そうだけど。具体的に」
「実行すれば分かります」
「え、聞いてません。何をすればいいの?」
「まだ、説明していません」
「聞きます」
 娘は実家に帰り、父親に庭に穴を掘ってもらった。
「種をまいた箇所は、まあいい。また、まき直すから」
 直系四十センチ、深さもそれぐらいの丸い穴だった。地下水が少し出ていた。
「池でも作るのか?」
「違うの、これで完成」
 娘は穴に足を入れた。
「お父さん埋めて」
 父親は足が埋まるように土で埋めた」
「動けないわ」
 娘は一時間ほど足埋めの行をした。ただ立っているだけだが、疲れると手をついた。ただ、それだけのことを一週間毎日続けた。
 そして体調が戻った。
「戻らんなあ」
 父親が庭を見て呟いた。
 草花はことごとく枯れ、植木の葉も散っていた。
 
   了
 
 



          2007年9月5日
 

 

 

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