小説 川崎サイト

 

一騎当千


 布施の君原十三郎。真田村の俊蔵。雲母峡の村上武一。その他大勢の勇者がいる。二十人ほどいるだろうか。一騎当千の武者達。
 若君は子供の頃から領内にいるそれら家来の武勇伝をお伽噺のように聞いていた。
 少し大きくなってからは側近が止めるのも聞かず、渋沢村の熊谷信康を訪ねた。二叉の槍の使い手。
 側近と手合わせしたが、敵うものではない。特に馬上から重い槍を振り回す技は、天下一品。
 しかし、それよりも強い荒武者がまだまだいるのだ。
 若君が跡目を継ぎ、領主となった。
 荒武者達は壮年に差し掛かり、さらに勢いを増した。年長の荒武者は引退したが、その息子が加わった。二十人衆と言われているが、それを越えている。
 その頃、隣国と小競り合いがあったのだが、二十人衆が加わることで、蹴散らした。逆に隣国の一部を奪い取り、ますます二十人衆の武勇は拡がった。
 そんな折、その隣国は援軍を呼んだ。そして簡単に奪われた村々を奪還した。元々は隣国の領土だったので、当然だろう。
 さらに勢いづいた隣国と、その同盟軍の援軍が、逆に攻め寄せてきた。
 若君は家督を継ぎ、領主になっているのだが、家老や側近が取り仕切っていた。それに、未だに「若」と呼ばれている。
「若は何もしなくても良いのでござる。全て我らが仕切りますゆえ」
 若は素直に従っている。
 隣国とその同盟軍がひしひしと迫っていたとき、家老や側近は降参を進めた。勝てないためだ。
 若もそれに従ったが、戦わずして負けるのはいやだ。しかし、ここで降参すれば、領土は減るがお家は残る。
「若、ご決断を」
 といっても、これは形だけのこと。
 若は幼い頃のことを思い出しているのだ。当家には二十人衆がいると。そして見に行ったこともあるし、先ほどの戦いでも、まだ健在で、ますます勢い盛んというのが分かっている。
 若がそこまで言うのなら、ということで、二十人衆を呼び集めた。
 騎馬が十五騎、あとの五人は歩いてきた。そしてその供回りを合わせると百人近い。
 この二十人衆が先陣となり、後ろから本軍が続いた。
 まずは物見が先に向かう。この中に二十人衆が二人ほどいる。そういう技能に秀でているためだろう。
 敵は意外と多いことが分かった。隣国の兵だけなら、しれているのだが、同盟国の援軍が多く来ている。これは本気で戦う気があるかどうかだろう。
 二十人衆は、一気に突き進めば、敵の陣を破れるとみた。前回の戦いでも、そうだった。二十人衆が突っ込めば、敵は逃げた。
 作戦はそれで決まり、一気に二十人衆の荒武者が突っ込んだ。
 若はこれが見たかった。我が領内には二十人衆がおり、無敵だと。
 突っ込んだ二十人衆は錐のように敵陣深くまで突き刺す。だが、そのあと出てきたのが同盟軍。この兵数が半端ではない。物見の知らせでは千を越え二千近く布陣しており、こちらへ向かっているのはその一部だと。
 規模が違っていた。
 二十人衆は、それでも敵陣深く突っ込んだのだが、囲まれそうになったので、引いた。多勢に無勢、個々の力では何ともならない。それに矢玉が雨のように降ってくるので逃げ出した。
 その報告を聞いた若は、落胆した。
 そして家老達が寄り合い、和議の交渉を再開した。
 二十人衆の噂は、その後、聞かない。
 
   了



2021年1月28日

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