小説 川崎サイト



はい

川崎ゆきお



「口でははいはいで、腹の中は別。それじゃ困るのよ」
「はい」
「あなたたち働くって、どういうことか分かってるの」
「はい」
「心からそう思ってやってくれないと、私にも客に分かってしまうのよ。同じ働くんだったら、気持ちを入れて働いてもらわないと駄目じゃない。自分も気持ちいいわよ」
「はい」
「口ではいはい言ってもお腹の中は別じゃ困るのよ。楽しく働く方が楽しいでしょ」
「はい」
「お客さんの数、減ってるのよ。問題でしょ。どうして減っているのか、分かるでしょ」
「……」
「スタッフに活気がないからよ。ただ、動いているだけじゃ、働いていることにならないのよ。あなたたちロボットじゃないでしょ。人が動くから働くと書くのよ」
「はい」
「きっちり働けば、いろいろなことも、きっちり分かってくるの。それが楽しいのよ」
「はい」
「せっかく縁あって一緒にお仕事しているんだから、楽しく働きましょうよ」
「はい」
「その前に、口とお腹の中を一緒にしておいてよ。何か問題があれば、話してよ。あなたたち何も言わないから、私、不思議なのよ。それはどういうことですか? とか、疑問があるでしょ」
「……」
「こうした方が良いっていう理屈があるのよ。それを自発的に聞いてよ。無理なこと言ってないわよ。形には訳があるのよ」
「はい」
「それは私が長年やってきたから分かったことなのよ。それを教えてあげているんだから、もっと理解してほしいの。ああそういう訳で、こうなるんだって話をね」
「はい」
「あなたたちの気持ちは分かっているの。面倒になれば辞めりゃいいって思っているんでしょ。辞めるのは簡単だけど、続けるのは辛いのよ。だから、続けることに価値があるのよ」
「はい」
「その、はい……が嘘臭いのよ。適当に頷いているだけ。お腹の中は別。うるさいおばさんだと思っているんでしょ。それなら、それで、それを話してよ。どうしてうるさく言うのか、聞きたくないの」
「……」
「明日から、気持ちを入れてやってよ。分かるんですからね……私やお客さんには。分かった?」
「はい」
 
   了
 
 



          2007年9月6日
 

 

 

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