小説 川崎サイト

 

ある案件


「暖かいですねえ」
「真冬なのにね」
「ここ、暖房が効いていますから、気持ち悪いほどです」
「暖かいのでほっとするところですが、ムッとしますねえ」
「それに、ここは人が多い。人いきれだけでも湿気が凄い」
「それに人は温かいですからねえ。コタツのように」
「私達もそのコタツの一つですよ。そして湿気発生器」
「まあ、それはいいのですが、本題に入りましょう」
「本題って、ありましたか」
「一応あります。案件の処理です」
「一応聞いておきます」
 その話が続いた。
「しかし、それって、昨日も聞きましたよ。その前の日も。一週間前にも聞いたような」
「一ヶ月前にもしていました」
「そうでしょ。まさか一年前も」
「流石にそこまで古くはありません」
「案件は分かります。毎日聞いているので」
「じゃ、そういうことで、よろしくお願いします。
 その翌日。
「暖かいですねえ。真冬にしては、ここに入るとムッとして気持ちが悪いほどです」
「そうですねえ。じゃ、早速案件に入ります」
 昨日と同じ話だ。
「じゃ、よろしくお願いします」
「あのう」
「何ですか」
「あなた、その案件、やってますか」
「いいえ」
「良かった。私もです」
「でも、よろしくお願いします」
「はいはい、しかと」
 その翌日。
「暑いですねえ。ここ、暖房が効きすぎだ。それに人が多いので、さらに暑い。ムッとして気分が悪くなるほどです」
「真冬なのに、暖かいですねえ」
「はい」
「じゃ、本題に入りましょう」
「何でした」
「いつもの案件です。今日はさらに詳しく話したいと思います。時間、いいですか」
「はい」
 いつもの話だが、今日は長い。しかし中身は同じ。
「ではよろしくお願いします」
「はい、了解しました」
 その翌日も、それが繰り返された。
 
   了

  


  


2021年2月9日

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