小説 川崎サイト

 

言葉遣い


 冬の終わり頃、春の始まり、浅春。だからまだ春としては浅い。早春と同じ時期だが、早春は、まだ早い春。早すぎる春。だから例年よりも春が早いのだろうか。それとも、もう春かと思うような感じかもしれない。
 春まだ浅き何とか何とかという言葉もある。春まだ早き何とか何とかでもかまわない。それを語る前後と関係しているのだろう。早いよりも、浅いと言った方が適切とか。
 しかし早いと浅いとは違う。早いは時間に関係し、浅いは空間と関係する。浅瀬は深さと関係する。時間ではない。
 浅き夢見し何とか何とかというのもある。
 早き夢見しでは違ってしまう。夢を早く見てしまったのだろうか。夢の中の時間、これは現実の時間とはかなり違うだろう。
 浅き夢見しは、まだ眠りが浅いのか、またはうたた寝で軽く夢を見たのだろうか。すぐ目が覚めるような浅い睡眠。
 こういう言葉は何処かで聞いたのを覚えているのだろう。フレーズとして。だから組み合わせ、または使う機会とか。
 別に学んだわけではないのに、いつの間にか覚えてしまったフレーズがある。それが聞き間違いとか、一生それに気付かなければ、正解は一生知らないままというのもある。だが、何も困らなかったりする。ただし、ひと前で喋るときや書きものでは、バレてしまうが。
 しかし、その人にとり、それが正解であり、本当の正解は拒否される。それに気付いたときは、もうその言葉やフレーズは使わないが、それは人に対してだけ。独り言では生きている。正しい使い方ではピンとこないのだ。
 だから、誰にも見せない日記などでは、凄いことになっているかもしれない。
 間違いを指摘されるのはその場の恥。知らないままなら一生の恥。その一生の恥でいいのではないか。本人が気付かなければ。そして言葉遣いとしては間違いなのだが、通用している言葉もある。普通に使っていたりする。これは指摘しにくい。指摘している本人も使っているので。
 言葉遣いを気にする人は、無口になるのだろうか。下手に喋ると危ないので。
 
   了

 



2021年2月10日

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