小説 川崎サイト

 

魔界の扉


 日常の中に魔界へと通じる隙間や扉があるわけではない。あれば厄介だろう。それに危ない。
 偶然何かの拍子で、すっと入り込んでしまうこともない。だが、魔界とはこの世とは違う別世界だけを差すのではない。魔界に入れば、風景も違い、そこで出合う人や動物、植物までも違うだろう。
 そうではなく、この世と地続きにある魔界もある。決して開けてはいけない何らかの扉。決して入り込んではいけない場所などがある。それらは多くの人にとっては魔界だが、その人だけの魔界もある。
 魔界には魔人もいる。しかし普通の人だ。これもその人にとっては魔人となる。
 だから魔界はその人の中にある。魔界を構成しているのはその人自身の世界。だから布団の中でじっとしていても魔界に入れる。当然寝てしまうと夢の中でその魔界が待ち受けていたりする。ただの悪夢だが。
 また、妙な考えや思いも魔界を開くだろう。魔界なので安全ではない。何が起こるか分からないし、ほぼ良い事は起こらないだろう。何せ魔界なのだから禍々しい世界。禍が降りかかって当然。
 しかし、敢えてその危険な魔界に入り込もうとするのは、良いものをお持ち帰りできるからかもしれないし、またこの日常では見ることができない珍しいものがあるためかも。
 ただの好奇心を満たすだけのことだが、これがすこぶる気持ちのいいことだったとすれば、それに引っ張られやすい。危険を承知で。
 魔界に入り込むと出て来られなくなる恐れがある。もういつもの日常とは違うことになっていたりする。
 日常の中には魔界の口が方々で開いている。下手に足を踏み入れると、大変なことになり、面倒なことになるので、普通は無視する。しかし、入ってみたい気持ちもある。
 いずれも、その人の世界での話で、その人にとってはとんでもない魔界だが、他の人にとっては普通の日常と変わらない世界かもしれない。
 魔界は常に見えている。それこそふと魔が差して入り込むこともある。
 
   了

 
 


2021年2月21日

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