小説 川崎サイト

 

暇潰し


「忙しいですか」
「まあまあです」
「私は暇でねえ。時間がなかなか潰れない。まあ何をやろうと、何もやらなくても、時間は経過し、夜になり、寝る時間にはなりますが、その間、退屈でしてねえ。やることがないので、暇潰しになるようなものが欲しいところです」
「今日は問題ないでしょ」
「そうです。こうして来ていただいたので」
「でも小一時間ほどですよ」
「二時間はいて欲しいです」
「用事がこのあとありますから」
「やはり忙しいと」
「大した用事じゃないのですがね」
「何でしょう」
「桜のつぼみを見に行くのです。変化はほとんどありませんがね」
「あ、そう」
「暇潰しです」
「いいですなあ。しかし、私、そんなものに興味はないし、その間、どう楽しんだらいいのでしょう」
「別に楽しくはないですよ」
「でも退屈はしない」
「まあ、ちらっと見るだけで、退屈するほど見ていませんよ。そこへ行くまでと戻って来る時間があります」
「その時間、暇が潰れている」
「そうですね」
「そういった趣味があれば、暇も潰れそうですねえ」
「本当に、何もやることがないのですか」
「ありますが、すぐに片付きますよ。それに顔を洗ったりとか、その程度のことですから」
「趣味を持たれたら如何ですか」
「若い頃から無趣味でして。余計なことはやらない趣味です」
「じゃ、いい趣味だ」
「趣味を作らない趣味です。作っても楽しめませんしね」
「時間潰し、暇潰し、まあ、呑気な話で、いいですねえ」
「そうとも言えますが、仕事を辞めてからは暇で暇で」
「ゆっくりされたらいいのですよ」
「それで色々なことに手を出しましたが、余計なことをしたばかりに、ひどい目に遭ったり、思わぬ出費になったりと、ろくなことはありません。だから静かにしていた方がいいのです。ところが、それでは退屈で退屈で仕方がない」
「寺社参りなどされては如何ですか」
「しました。古寺巡礼。しかし、何が面白いのかが分からない」
「それでいいのですよ。目的があるだけで」
「どの寺もどの神社も似たようなもので、何カ所も回る必要がないほどです」
「違いがあるでしょ」
「ありますが、私にはどれもこれも同じようにしか見えない」
「じゃ、行っても退屈なだけ」
「そうです。そうです」
「じゃ、家にいるのが一番と」
「こうして、来て貰えて、有り難いです。お陰で時間が潰せました」
「あ、そう」
「今日は有り難うございました」
「まだ、一時間も経ってませんよ」
「飽きました」
「あ、はあ」
 
   了


 
 


2021年2月27日

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