小説 川崎サイト

 

夢の散歩道


 三島は寝起きすぐに自転車に乗り、散歩に出掛けた。
 しかし道が少し違う。同じ道だが少しだけ様子が違う。舗装が少し違うし、沿道の建物も同じものだが少しだけ違う。よく見ると最初からそういう建物だったような気がするし、いや、こんなのではなかったとも思える。
 古いのではなく、様子が違うのだ。これはおかしいと思いながら、自転車を進めた。
 そして次の辻に出たとき、かなり違っていることが分かる。公園前に出るとあるはずの木がない。伐られたのだろうか。しかし根こそぎないようで、最初からなかったような感じ。だが、確かにそこに木があったのだ。あたりまえすぎるほどあたりまえのようにして。冬場なので葉は落ちているが、その枝振りは知っている。枝の多い木だった。
 おかしいぞと思いながらその辻を左に曲がると、さらに変化が激しい。果たして同じ場所なのかと疑う。部屋を出てから五分も経っていない。
 そこで三島はあることに気付いた。どうして寝起きすぐに自転車などに乗っているのかと。そんな習慣はない。散歩には行くが、起きてすぐではない。昼頃だ。
 風景の変わり様よりも、そちらが気になった。何がきっかけで出たのだろう。目的は散歩なので、朝一番の用事があったわけではなさそうだ。用事なら出るとき頭にあるはず。
 出るとき、頭にあったのは散歩に出ること。まるで毎朝の日課程度の感覚で、普通にさっと出ている。考える必要はない。日課なので。
 しかし、三島にはそんな日課はない。
 さらに進むと顔だけ知っている年寄りと出くわした。家の前に立っている。しかし、その家も少し違うし、老人は帽子を被っている。帽子ぐらい被るだろう。しかし服装も、センスが違う。それで別人かと思ったのだが、顔を見ると、たまに見かける人だ。
 さらに進むと、同じようなことが起こっている。見知っている場所なのだが、少しだけ違う。しかし、何かが起こるわけでもなさそうだ。
 三島は寝起きすぐに散歩に出るようなことはない。それをも一度確認した。すると答えが出てきた。
 まだ寝ているのだと。
 そのうち夢がすっと覚めると思いながら、先へ先へと進んだ。
 
   了
 
 
 


2021年3月4日

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