小説 川崎サイト

 

宿題


 何かあったのに竹田は忘れた。それは大事なことで、これは良いことだと思えたのだが、忘れてしまった。竹田が考えたことではなく、ネットを見ていて知ったこと。ある言葉が少しだけ出てきており、それがメインの情報ではなかったのだが、竹田はそのフレーズが気に入った。これは何かの打開策になるか、または頭の中に留め置いた方がいいと考えた。それが根付けば、いい感じになるのではないかと。
 しかし、その良いフレーズを思い出すこともなく過ごしていた。そして、そういえば良いことを聞いたことがあったと、思い出したのだが、その言葉が何であったのかを忘れてしまった。
 良いことを聞いた。見た、知った。しかし忘れている。ただ、それは良いことであることにかわりはない。だが、忘れたのだから、よくない。
 竹田はメモを取らないし、日記も書かないので、手掛かりがない。また、ネットで適当に閲覧しているときに、見付けたものなので、それが何処にあったのかも分からない。ブックマークもしていない。
 見たページの履歴を調べれば出てくるかもしれないので、調べようとしたが、途中でやめた。
 忘れてしまうような内容なのだから、それを思い出しても、また忘れるだろうと。だから大したことではなかったのかもしれない。
 竹田は色々な人から色々と良いことをリアルでも聞いている。一応聞いてみる。素直に。そしてその度に理解し、納得する。しかし実行しない。
 話を話としてしか聞かないためだろう。それはあくまでもお話しであって現実とはまた違うし、たとえそうでも実行しなかったりするが、参考にはなる。だから参考書の山ばかりが高くなっていく。
 それで、すっかり忘れてしまったのだが、ある日、手掛かりを得た。リアルな人間と話しているとき、相手がそのフレーズを言ったのだ。
 竹田は大笑いした。思い出したので喜んだわけではない。そのフレーズ、凄い洒落だった。駄洒落だ。
 え、そんなことが大事な言葉だったのかと思えるほど。名言でも何でもない。しかし、可笑しかったのだ。
 ただそれは厳密に言えば駄洒落ではない。また相手も洒落のつもりで言ったわけでもない。語呂が偶然重なって洒落のように竹田には聞こえたのだ。
 その洒落のような繋がりの中に何かを竹田はそのとき発見したのだが、それを忘れた。
 要するに外からの情報ではなく、内から出てきたもの。そのとき良いものを掴んだと思ったのだが、忘れたのでは仕方がない。
 竹田は小学生のように「忘れました」と呟いた。宿題を忘れたのと同じ顔で。
 しかしそれは宿命のようなものだったのかもしれない。
 
   了

 
 


2021年3月6日

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