小説 川崎サイト

 

ある散歩者


 真っ直ぐな道が続いている。何処かで曲がっているはずだが、視界からはそれは見えない。遠くは霞んで、よく見えないが、見えている箇所は真っ直ぐ。
 広田はそこを歩いている。後ろを見ると、曲がっているのが見える。その曲がっているところの手前から、この道に入った。狭いながらも歩道があり、車道との間には植え込みがある。そのため、真っ直ぐな道とは、この歩道で、車道ではない。しかし、歩道は車道に寄り添うようにしてあるので、同じことだが、目の前に拡がる線は歩道の線。
 この先を行くと何処へ出るのかは広田は知っている。しかし徒歩なので、そこまでは行かないだろう。確かに真っ直ぐな道だが、道そのものが途中で終わる。それは既に知っているので、確認するため、見に行く必要はない。それに見ても仕方がない。
 少し歩きたかっただけなので、そんな冒険はしない。ただ、歩くだけなら冒険とは言えないが、長い距離をひたすら歩くのは広田にとり冒険かもしれない。日常にはない。
 歩きながら考え事がしたかったのだが、目の前のものに気を取られた。真っ直ぐな道に。
 しかし真っ直ぐな道を発見したとしても、あまり役立たない。ぼんやりと眺めているだけ。その方が気楽でいい。
 それで、考え事を忘れてしまったわけではないが、いくら考えても何ともならない問題なので、考えても考えなくても同じようなものだと、考えが纏まったのか、もう考え事からは離れた。
 だからもう歩く必要はない。引き返そうと思ったのだが、僅かな距離しか歩いていない。折角散歩に出たのだから、もう少し歩いてみたいと思い、広田は先へと進んだ。
 左側は車道なので、その沿道はよく見えないが、最近に建ったような家とかマンションが見えている。右側はすぐ玄関先があるほど近いので、よく見える。歩道と家とが近い。下手をすると、他人の敷地に入ってしまう。
 ありきたりな家々で、風景も趣がない。歩道脇の植え込みや間隔を置いて植えられている並木を見ている方が目には穏やか。
 しかし、すぐに飽きてきたので、やはり戻ろうと広田は思った。
 考え事を途中でやめたり、前へ行こうとしたり、また戻ったりで、変更が多い。それを決めているのは気分だろう。
 まあ、散歩ぐらい気分を優先させてもかまわないはず。
 要するに気晴らしなので、気が晴れたことにして、戻ることにしたが、それほど晴れてはいない。考え事を途中でやめたせいもある。何か結論を得て、それを土産に持てば、戻り道も軽快だろう。
 戻りはただのUターン。真っ直ぐな道はすぐ先で曲がっている。それは先ほど確認した。必要のない確認だが。
 その手前の道からこの歩道に入り込んだ。それがすぐに目に入って来た。
 当然すんなりと枝道に入った。
 ここも住宅地の中の道だが、昔は村道だったようだ。広田の住むところは、もうそこだが、お隣の庭木が先に見えた。
 広田は、その庭木の横の小道に入ると、背の高い草が伸びている。草の中の道だ。その突き当たりに、こんもりとした塚がある。
 広田は、その塚にポカリと空いた横穴に入っていった。
 
   了
 
 


2021年3月8日

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